神戸が誇る“珍”スポット!? 地下街の一角に「卓球の聖地」  愛されて半世紀 #昭和98年

黒川 裕生 黒川 裕生

カッ、コッ、カッ、コッ。

神戸高速線の新開地駅と高速神戸駅を結ぶ地下街「メトロこうべ」を歩いていると、ピンポン球の軽やかな音が響く、ちょっと不思議な一角にたどり着く。広い通路を区切るフェンスの向こうには、13台の卓球台が規則正しく一列にずらり。神戸が誇る卓球の聖地、その名も「メトロ卓球場」である。

ある日の午後に訪ねてみると、スポーツウェアを着て真剣に打ち合う中高年もいれば、ラフな私服で興じる若いグループ、お出掛けのついでに立ち寄ったと思しき家族連れの姿も。客層はまさに老若男女を問わずといった趣で、神戸っ子の日常に深く馴染んでいるのが感じられる。

開業したのは半世紀以上前の1971(昭和46)年11月1日。そもそもの開発計画に卓球場は含まれていなかったため、神戸高速線の開通とメトロこうべの開業(いずれも1968年)からはすでに3年半が経過していた。

「卓球場があるのはメトロこうべの『中間通路』と呼ばれる中央エリアなのですが、地下街が開業した当初は店舗も何もなく、殺風景な場所だったんです」。メトロ卓球場を管理運営する神戸高速鉄道事業部の宮村哲二さんはそう明かす。安全性の向上と活性化を図るために目をつけたのが、安定した人気があって気軽に遊べる卓球場だった、というわけだ。

約30台のゲーム機を備えたゲームコーナーを併設する形で整備したのだが、そこで判明したのが、通路の柱と柱の間に卓球台がちょうど1台ずつ収まるという運命的な偶然。知らない人には「どうして地下通路に卓球場が?」という奇妙な組み合わせに感じられるかもしれないが、今となっては逆に、もはや卓球場以外の使い道は考えられない空間だと言っても過言ではない。

ゲームコーナーは4年後の1975年に撤去されたが、見ての通り、卓球場は現在まで生き残った。面白いのは利用者数の推移で、この半世紀余り、寂れることも大人気になることもなく、淡々と堅調を維持しているのだという。日本人が卓球で初めてメダルを獲得した2012年のロンドン五輪後や、2018年のメトロ卓球場全面リニューアル後など、一時的にぐんと伸びを示したこともあるにはあるが、基本的にはほぼ横ばい。なんと、この一帯が被災した1995年の阪神・淡路大震災後でさえ、そこまで大きく落ち込むことはなかったというのだから驚かされる。

2020年度以降はコロナ禍による休業や時短営業が続き、平常時からは10%ほど減らしているが、それでも「最近はある程度利用者が戻ってきている」(宮村さん)。ここで開かれている15ほどある卓球教室も、欠けることなく継続中という。

3年ほど前から週2日のペースで利用しているという会社員の男性(40代)に、メトロ卓球場の魅力を聞いてみると、「駅からアクセスしやすい上に、これだけの規模の卓球場ってあるようでなかなかないので貴重なんですよ」。自身は神戸在住だが、市外の卓球仲間ともここなら集まりやすいといい、かつ、ほぼ予約なしで入れるところも高ポイントという。

しかし…。

「難を言えば、普通の地下通路の一角だからか、夏の暑さと雨の日の湿気がすごい。卓球は非常に繊細なスポーツなので、湿気によって球のスピンのかかり具合などが劇的に変わります。それさえなかったら最高なんですけどねえ(笑)」

◇ ◇

1月1日以外は毎日10時から20時オープン。料金は1台1時間当たり大人900円、中学生以下700円。昭和、平成をくぐり抜けた卓球場は、2018年の全面改装でずいぶん明るいイメージになり、弾力のある床材も敷き詰められた。

ところで最初に「神戸が誇る」とぶち上げたが、実は神戸市民の間ですらそこまでの知名度はなかったりもする。何しろ9歳まで神戸で育った現在44歳の宮村さんも、2017年に担当になるまで、存在自体を知らなかったらしい。

もうすぐ52歳のメトロ卓球場。伸び代、まだまだあると思います。

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※この記事はまいどなニュースとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。

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