月経のある女性の10%が子宮内膜症 将来妊娠の可能性ある20代女性に処方した、低用量ピルとは?

ドクター備忘録

川口 惠子 川口 惠子

子宮筋腫と並んで月経痛の原因となる疾患は子宮内膜症です。月経のある女性の10%には子宮内膜症があるといわれており、しかも年々患者数は増加しています。子宮内膜症とはどんな病気なのでしょうか。

子宮の内腔は子宮内膜という粘膜でおおわれています。子宮内膜は1カ月に1度の排卵後卵胞ホルモン(エストロゲン)や黄体ホルモンの作用によって分厚くなり、月経とともに剝がれ落ち薄くなることを繰り返しています。

本来、子宮内腔にあるべき子宮内膜とそっくりな組織が卵巣や腹腔内で増殖し、月経とともに出血して炎症や癒着をおこし、骨盤内の色々な所に浸潤していくのが子宮内膜症です。卵巣にできた内膜症は次第に大きくなって、中に古い血液のような液体の溜まった袋になり内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)とよばれます。

骨盤内に散らばった内膜症は次第に骨盤深く浸潤し深部子宮内膜症と呼ばれ激しい月経痛や骨盤痛の原因となります。なぜそのようなことが起こるのかについては実はまだよく分かっていませんが卵管を通って月経血が子宮から腹腔内に逆流することによって発生するのではないかと言われております。

子宮内膜症の症状は次第に増悪する月経痛です。病状が進むと子宮と直腸の間に病巣ができるため性交痛や排便痛が出てきます。また子宮内膜症は悪化すると不妊の原因となります。子宮内膜症による慢性的な炎症によって動脈硬化や心疾患の危険が高まることもわかってきました。

患者数が近年増加

このように長期にわたって女性のQOLを著しく低下させる子宮内膜症ですが、その患者数は近年とても増加しています。その原因は女性のライフスタイルの変化です。昔の女性は10代で結婚し、沢山の子供を生み母乳で育てました。現代の女性は30代まで結婚しない人が珍しくなく、生涯独身の人も大勢います。子供を生んでも一人か二人です。つまり昔に比べると月経の回数がとても多くなっており、これが患者数増加の要因です。

では子宮内膜症が良くなるにはどうすればいいのでしょうか?まず閉経することです。50代になって閉経すれば良くなります。次は妊娠してたくさん子供を産むことです。妊娠中は月経がありませんから、たくさん出産すれば内膜症はよくなります。次は排卵しないことです。排卵せずめったに月経が来なければいいし、毎月月経がきても無排卵ならば月経痛は強くありません。しかし閉経しろ、妊娠してたくさん出産しろ、排卵するなと言われても急にできるわけがありません。そこでこのような状態を作り出す様々な薬剤が考案されてきました。

子宮内膜症と診断されても、症状が軽ければ痛み止めや漢方薬で経過をみてもよいのです。しかし症状が強くなった時、若い方ならば低用量ピルが良いでしょう。ピルは排卵を止める薬です。普通のピルは4週間に一度月経が来るようになっていますが、内膜症の方には連続投与のピルがお勧めです。連続投与によって3~4カ月に1回月経が来るようになり、健康保険が使えるのでお値段も高くありません。

左卵巣にチョコレート嚢胞

Eさんは25歳のファッションアドバイザーです。2年くらい前から月経痛がひどくなり鎮痛剤も効かなくなりました。接客業なので不機嫌な顔もできず大変です。診察すると左卵巣に5センチくらいのチョコレート嚢胞があり、子宮は後屈し圧痛があります。Eさんはまだ独身ですが、将来結婚すれば当然妊娠したいと思っています。

私は彼女に低用量ピルの連続投与を勧めました。これにより彼女の月経は3カ月に1回になり、月経痛はピル服用前の30~40%になりました。半年ほどたつと卵巣嚢腫は4センチくらいになりました。1年後には月経痛は20~30%くらいになり鎮痛剤を1カ月に1回飲めば仕事も支障なくできるようになりました。うれしいことに卵巣嚢腫も2.5センチくらいに縮小しています。彼女はずっとこの治療を続けたいと思っています。

若い方が低用量ピルを服用する場合、子宮内膜症を進行させないために妊娠を希望するようになるまで続けるのが良いとされています。

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