とにかく日本人は湿布(シップ)好きです。筋肉痛や関節痛の時に確かに手軽に貼れますし、封を開けなければいつまでも保つので、ご年配の患者さんはほぼ皆さん、常備薬として湿布の処方を希望されます。
湿布は正式には貼付剤(Patches)と呼ばれ、大きく分けてテープ剤とパップ剤の2種類があります。テープ剤は水分をほとんど含まないもの、パップ剤は水分を含むものです。パップ(pap)とは英語で「泥」を意味しますが、元々は「キリストの唾液」に由来するオランダ語が発祥のようです。
半世紀前は、泥状のペーストをビンに入れて処方し、患者さんはいちいち布に塗り伸ばして貼っていましたが、布状のシートに薬剤を伸ばして付着させる技術は意外と難しくて開発に数十年かかり、近年ようやく様々な製品が開発されています。通常の湿布は貼った周囲50センチほどの範囲まで効果がありますし、皮膚から毛細血管を通じて有効成分の血中濃度をグンと高めるものもあり、飲み薬が必要ないものもあります。
20年以上前、往診に通っていた95歳のお婆ちゃんが、黒い便が出ると言うので呼ばれたことがあります。それまでも何度か吐血の既往があったとのこと。とりあえずお腹を触ってみようと服を脱いでもらうと、身体中にまるでミイラ男のように湿布を貼っています。
歳も歳ですからあちこち痛いのはわかりますが、痛いところ全てに湿布を貼っていたのです。湿布に含まれる薬剤はNSAIDsとよばれる非ステロイド性消炎鎮痛薬で、実はこれ、胃や十二指腸の難治性潰瘍、果ては腎不全という副作用まであります。
医療機関で処方される枚数は制限がありますが、薬局でも買えますので、体重30キロそこそこのお婆ちゃんが毎日10枚以上湿布を貼り続けていると、胃に穴が空いて血を吐く、血便が出る、原因は湿布の貼りすぎです。
薬局で簡単に買えるとしても、用量を守って、副作用の危険も理解しておいてください。漫才のネタで「湿布は寝てる間にはがれてまうし,効いとんのか効いとらんのかわからん」というのがありますが、個人差はあれど、間違いなく効果はあります。