レコードの人気が世界的に高まっているといわれます。一方、楽曲を配信で購入することが一般的になって、CDの売上は減っているようです。そんな流れの中で2022年、アメリカではついにレコードの売上がCDを抜いてしまいました。そして日本の若い世代もレコードを買う人が増えてきたようです。
「サウンドバーガー」という商品が一瞬で完売
2022年秋、レコードのカートリッジやヘッドホンで有名なオーディオテクニカが「サウンドバーガー」というレコードプレーヤーを発売しました。これはもともと1982年に発売されたサウンドバーガーのリバイバル商品ですが、製品に同梱されていたパンフレットによると、当時の製造ラインを復活させてはいでき上がり、という感じで作ったものではないようです。図面なども残っていない中、開発当時を知るスタッフの協力などを得て、今の時代に新しく開発されたのだそうです。
サウンドバーガーは、ハンバーガーのようにレコードを挟み込んで回転させて音楽を再生するという、構造上ほぼミニマムなサイズのレコードプレーヤーで、プラスチック感満点の赤いボディはまさに1980年代のキッチュなデザインです。全世界7000台の限定販売で、国内では公式ウェブサイトのみで3回に分けて売り出されましたが、各回とも壮絶な争奪戦になり買えない人が続出しました。筆者はその2回目の販売日、iPhoneの前に張り付いてなんとか買うことができましたが、ダイヤルアップ回線時代のように重い接続、そして果てしなく繰り返される決済エラーと戦う一時間あまりを過ごしました。
プレーヤーを持ってない人がアナログレコードを買っている
サウンドバーガーの初代を知る年代、青春時代をアナログレコード(今の人は「バイナル」と呼んだりするらしいですが)とともに過ごした世代にとって、サウンドバーガーは懐かしいアイテムですが、生まれたときからCDが有った若い世代にとっては一周回って新しいものなのかもしれません。発売日にTwitterを覗いてみると、おそらく若者と思われる方が大勢買ってらっしゃるようでした。中には「やっとこれで手持ちのレコードが聴ける」という趣旨の書き込みもあり、つまり今まで「聴くための手段はないけどレコードを持っていた」という人が一定数いるのだ、ということに気がつきました。
レコードに関して書かれた最近の記事などで見る限り、レコードを持っている人の中に、再生手段を持っていないという人が実に半数近くいるようです。つまり「楽曲そのものは配信その他で聴く」、その上で「聴けなくてもいいからレコードを買う」ということなんですね。もはやメディアとしてのレコードではなくてアイコンというか、物質に結晶した楽曲がそこにあるというような感じなのでしょうか。アーティストへの応援の意味もあるのでしょうけど、モノとして持っておきたい、ということなんでしょうね。
わかりやすい所有感?
アナログレコードは確かにCDよりも大きくて重いので存在感があります。また盤面に「溝」が彫ってあってそれを針でなぞって音を出す、という原始的な仕組みなので、レコード盤の表面を見ると、たとえば曲と曲の間の無音部分などは目視で確認できます。
これは特殊な例なのですが、テラークというレーベルが出していたチャイコフスキーの「大序曲1812年」などは曲中に大砲の音が収録されていました。この大砲部分は大音量の超低音が刻まれていたので、その部分だけ溝の振幅が大きく、木目のような溝が目視で確認できました。
さらにアナログレコードでも、LPよりもさらに前の時代、毎分78回転のSP盤の頃。蓄音機と呼ばれていたレコードプレーヤーは、針先の振動を電気に変換するというプロセスなしに、そのまま振動板を振わせて音を出していました。これなどはもう針でなぞれば素手で音が聴けそうな気がしますよね(いやいや無理無理)。
CDやデータなどと違って、なんとなく目をこらせば音楽が見えそうなところがレコードの魅力の一つなのかもしれません。
配信という形に残らないものではなく、物質として音楽を所有したいという気持ち。とりあえずCDよりも大きくて「音楽がそのまま溝として刻み込まれている」という即物的なところ。一部のCDのように数十年で腐食して聴けなくなったりしない安定した長寿命。原理が単純なので100年後にも再生装置が手に入りそうな安心感。またサイズが大きいことでジャケットも大きくてアートが映えるというのも嬉しいところかもしれません。
モノを持つことにこだわらない人たちが増えたといわれる一方、「アナログレコードを買って持っておきたい」という人たちも一定数いるということが、レコード世代の一人として少し嬉しく感じます。
※サウンドバーガーは好評を受けて今春、レギュラー商品として改めて発売されるようです。