前国家公安委員長が「こども食堂」をスタート 議員バッジ外し地元で社会貢献、安倍元首相との秘話明かす

国貞 仁志 国貞 仁志

 バッジを外せばただの人-。国会議員はよくそんなふうに言われる。

 安倍晋三元首相が銃撃されたとき、警察行政をつかさどる閣僚の国家公安委員長だった二之湯智さん(78)もその1人。京都選出の自民党参院議員を3期18年務め、昨年8月に引退した後、ある事業をひっそりと始めていた。

 「みんな、どこの学校?」「また今度、友だち連れておいでな」

 1月下旬。京都市右京区のビルの一室で、トランプで遊んでいた小学生たちに二之湯さんが声をかけていた。部屋の入り口には自身が毛筆で書いた「こども食堂」の看板がかかっていた。

 子どもたちに居場所や食事を提供する活動をなぜ始めようと思ったのか。それは、現職のとき、党内の勉強会で新型コロナウイルス禍の影響を受けた家庭の実態を見聞きしたことが大きかった、という。

 「コロナで親の会社が倒産し、ごはんを食べられない家がたくさんあった。観光関連や中小企業が多い京都でも、コロナで生活が苦しくなっている家庭はある。議員をやめたら何をすべきか考えたときに、長く京都で活動してきて人とのつながりもある僕が、こういうことをすれば、社会に役立つのではないか」

 父は中学校の教員で、京都府井手町の教育長も務めたという。「親戚、きょうだいは教育者が多い。二之湯家の血筋もあるんやろな」とルーツもたどった。

 2021年10月から約1年間の大臣在任中は、自身を取り巻く問題がつきまとった。自民党京都府連の政治資金分配に絡む疑惑や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点をめぐり、国会や記者会見でたびたび追及を受けた。

 そして、参院選期間中に起きた安倍元首相への銃撃事件。要人警護のあり方が問われ、国家公安委員会のトップとして矢面に立たされた。「けじめをつける」として、叙勲や功労議員表彰などを辞退すると表明した。

 安倍元首相の死去から半年余り。「半年の間に日本も世界もめまぐるしく変わったな」。二之湯さんはしみじみ言った。防衛予算拡充をめぐる議論について「安倍さんならどう思っているだろうか」と思いをはせる。

 「銃撃の3日前、京都駅から新幹線に乗ったら、SPが『同じ新幹線に安倍元総理が乗っていますが、あいさつにいかれますか』と言われた。でも、選挙期間中で疲れているだろうと思ってしゃべりかけなかったのが、悔いが残るな」

 初回の「こども食堂」ではお菓子や果物を出し、正月遊びの道具を置いた。ボランティアの大学生や年配の人が子どもの遊び相手になった。事前に近くの小中学校を通じてビラを配り、10人ほどが訪れた。

 当面は右京区を中心に月に1回程度開くつもりという。二之湯さんは「今はとりあえずスタート。これからはコロッケや唐揚げとか、調理したものも出せるようにしたい。子どもがすくすく成長できるように僕自身サポートしたい」と意欲を語った。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース