東京藝術大学が予算不足のため、ピアノを撤去する告知を出し、大学内外で動揺が広がっています。
東京藝大は【練習室ピアノ撤去について】と題して、「大学の予算削減のため、2部屋のピアノを撤去することとなりました」と学生に通知し、ある学生は「藝大、本当にやばいかもしれない」とツイート。ピアノ撤去に対し、「ヤバすぎて草」「ピアノを撤去するだけで、予算削減になる思考がわからない」と驚きの声が上がりました。
日本で最も古い歴史を持ち、世界的な音楽家、芸術家を輩出してきた東京藝大に何が起きているのか。東京藝大に聞きました。
電気代高騰し、調律費かかるピアノ減らす
東京藝術大学は、1887年に設立された旧制・東京美術学校、東京音楽学校が前身です。伝統、格式とも日本の美大、音大の頂点に立ち、入試は最難度で、2浪、3浪する人も珍しくありません。
一方、国は国立大学への交付金(運営費交付金)を減らす傾向にあります。
ーーピアノを撤去しなければならないほど、大学予算が減っているのですか。
「音楽学部器楽科弦楽専攻(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ハープ)の研究室が所属学生に対し、『練習室ピアノ撤去について』というお知らせを行ったのは事実です。
理由としては、電気代高騰等の影響により、大学全体として経費削減を進めていますが、音楽学部では、保有台数が多く、調律代等の維持費がかかるピアノについて、設置場所や台数の見直しを行いました。
お知らせをした当該練習室は器楽科弦楽専攻の練習室であり、大型弦楽器(チェロ、コントラバス等)の練習にはピアノが無いほうがスペースが確保でき、練習がしやすいことと、設置されていたピアノは主に副科ピアノ(副科は自分の専門以外の実技授業であり、副科ピアノはピアノ専攻以外の学生が履修する)の練習用に設置されたものであり、その台数は学部内で十分確保されていることから、当該練習室からピアノを撤去したものです。
よって、ピアノ専攻の学生はもちろん、他専攻の学生に対してもピアノの練習環境に影響を与えるものではありません」
「電気代の高騰および電力供給事業者の倒産(東京電力の最終保障契約への移行)により、令和4年度の電気料金について、当初予定額は年間1.27億円だったところ、実際の支出額は3.64億円程度となり、本学の今年度予算において予定外の支出が2.37億円程度生じる見込みです」
ーーピアノ撤去は国からの運営費交付金減少が原因ではない?
「今回はそうではありません」
ーー学内ホールの暖房の効きが悪く、研究発表時に毛布とカイロが配られる。図書館予算が大幅に減らされ、本や楽譜が仕入れられない、といった情報も広がっています。事実でしょうか。
「1月下旬に実施した、音楽学部音楽環境創造科の研究発表において、ホールの空調設備が不調であったため、毛布とカイロを配布したのは事実です。なお、空調設備は現在修理中です」
「図書館予算については、電気代高騰等のほか、為替変動等の影響により、外国雑誌、洋書、輸入楽譜、電子資料の購入価格が、来年度は例年より大幅に値上がりすることが見込まれています。
現在、価格調査のため各業者に見積等を依頼して来年度の図書資料購入計画を検討しており、資料購入費がどの程度削減されるかは精査中です」
ーー大学予算削減で、教育研究活動や学生の育成に不都合は生じていませんか。
「電気代高騰等により、経費削減を進めているところですが、教育研究活動に支障が起きないよう、引き続き努力してまいります」
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東京藝術大学は2019年度に学費を20%引き上げ、学食も値上げしました。国から国立大学への交付金は減少傾向の上、大学それぞれの目標達成状況や民間資金の獲得状況に応じて傾斜配分されるため、理系学部がない東京藝大には不利とも言える状況です。日本最高峰の芸術大学の教育環境をどう守っていくのか。学外を巻き込んだ幅広い議論が必要なのかもしれません。