「令和の伊能忠敬になってみませんか?」ーー住宅地図で知られる「ゼンリン」(本社:福岡県北九州市)の求人ページにこんなフレーズがあります。募集する職種は住宅地図調査員。伊能忠敬といえば、江戸時代に日本全国を歩いて測量し、緻密な地図を作ったことで知られていますが、「令和の伊能忠敬」の仕事とは。
別府市街地→全国の住宅地図へ発展
「ゼンリン住宅地図」は、一軒一軒の建物の名称や居住者名、番地が大縮尺の地図上に表示された地図のこと。全国1741市区町村を網羅。警察や消防、行政サービスのほか、宅配便や新聞の配達、不動産や銀行などの顧客管理などにも活用されています。紙版の場合、範囲の広い市区町村は分冊で発行されているため、発行点数は1741点を優に超えます。最近ではネット配信やコンビニプリントサービスなどにも対応しています。
住宅地図調査員の仕事について、同社広報担当者に話を聞きました。
──住宅地図が初めて発行されたのはいつ。
「当社は1948(昭和23)年、大分県別府市で創業しました。翌年の1949(昭和24)年、当社にとって初の刊行物『年刊別府』を発行しました。内容は地元の観光小冊子です。その巻末付録として、カラー刷りの精巧な別府市の市街地図も添付したところ、好評を博しました。これがきっかけとなり、1952(昭和27)年に初の住宅地図『別府市住宅案内図』を発行。全国の住宅地図に発展しました」
──住宅地図調査員の仕事とは。
「住宅地図調査員は、個人のお宅、商業施設やビル、道の形状まで、街中にあふれるありとあらゆる公開情報を徒歩と目視で確認し、地図上に反映するお仕事です。更新作業では、これまでの地図と現況の相違を確認します」
──更新の頻度や作業日数、携わる人数は。
「都市部は1年に一度、それ以外の地域は2〜6年に一度のペースで調査を行います。小学校などの大きな物件が建設された場合は別途、現地調査を行い、カーナビやWEB地図などに随時反映しています。日数や人数に関しては、非公開情報のためお答えすることはできませんが、全国には調査拠点が約70拠点あり、各拠点で調査担当者が連日、町に赴いて調査しています」
──紙の地図だけでなく、デジタルの地図も。
「当社では現実世界を構成するさまざまな要素、例えば、表札情報や建物の形状、バス停、横断歩道の位置などを地物(ちぶつ)と呼んでいます。用途に応じて地物を組み合わせることで、カーナビの地図やスマホ用の地図、近年の取り組みでは自動運転用のシステムに組み込むための地図データなども展開しています。そのため現在の業務内容としては、住宅地図調査員というよりも、地図調査員という言い回しが適切かもしれません」
──更新作業の流れは。
「まずはじめに全国約70拠点の調査員が現地で調査を行います。その調査結果はデータ化され、整備部門へと送られます。北九州にて収集データを地物として整備し、その後、住宅地図用やカーナビ用、WEB用地図など、用途に応じた編集作業が行われます。住宅地図の場合は前回の出版時からの修正箇所を全て反映した上で印刷作業を行います」
「地図は社会インフラ」が誇り
──住宅地図がないと困る理由は。
「当社では『地図は一種の社会インフラである』と考えています。災害時、住宅地図は非常に重要なものとなります。大規模の災害が起きると、どの家がどこにあったのか、誰がどこに住んでいたのかなどがわからなくなってしまいます。そのような場合に、自治体職員や消防署員の方に活用いただいており、住宅地図が安否確認に活用されることもありました。2022年10月末現在、全国の722自治体と『災害時支援協定』を結んでおり、地域の防災や減災を支援しています」
──変更箇所は世相を反映していると思うか。
「図面によっては一面が修正箇所で埋まることもあり、町の変化を強く感じることができる仕事であることは間違いないです」
──「令和の伊能忠敬になってみませんか?」は誰が考案。
「実際に調査業務を行っている調査員が考えた言葉です。調査を行わなければ地図上に載らないさまざまな情報を、日本全国で取得し、街並みを地図に残すことが出来る。その取得した情報が世の中のためになっている。この業務に強い誇りを感じていた調査員が、自分の書いた家の形が地図に記載されたときのやりがいを表したいーーと感じたことから生まれました。規模は違いますが、偉大な先人の伊能忠敬さんの名前を挙げられるくらい、誇りを持って仕事をしている気持ちを込めています」
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調査業務は同社の新入社員研修でも取り入れられ、今回インタビューに答えてくれた担当者も入社時研修などで経験済みでした。担当者は業務を振り返り「1日1万歩以上、少なくても5時間は歩きまわります。疲れたという感覚よりも、楽しく調査していた記憶があります。自分が修正した道路の形状が地図に反映されたときは誇りに感じました。やりがいが大変大きい仕事です」と話しました。調査員ならではの「あるある」もあるそうで、「プライベートで街歩きをしていても、ついつい番地の情報や住居表示のプレートに目が行ってしまいます(笑)」。
住宅地図調査員の募集は不定期に行なっており、求人情報は同社公式ツイッターアカウント「株式会社ゼンリン」(@ZENRIN_official)などでも発信しています。