芸大生が考案したズボンは、裾直しの端切れを活用「廃棄分を価値あるものに」→ユニクロで展示

堤 冬樹 堤 冬樹

 京都市左京区の京都芸術大の学生が、ジーンズなどの裾直しの際に出た端切れをつなぎ合わせ、1本の新しいズボンによみがえらせる活動を続けている。本来廃棄される資源を有効活用する試みで、作品は中京区の衣料品店「ユニクロ京都河原町店」で展示中だ。

 オリジナルのズボンを手がけるのは、同大学芸術学部空間演出デザイン学科ファッションデザインコース4年生の谷口京香さん(22)。1年生の時にユニクロ京都ファミリー店(右京区)でアルバイトを始め、業務の一つである裾直しの際に、大量の端切れが捨てられている現状に疑問を抱いた。

 3年生の時、社会課題とデザインに関する授業で、自身が働く店だけで1カ月に約600枚、ズボン12本分の端切れが廃棄されている実態を調査。「日本や世界、オンラインストアでの廃棄分も合わせるとさらに膨大になる。この現状を変え、価値あるものを生み出したい」。そうした思いを原動力に、店で出た端切れでズボンを作ることを思いつき、実行に移した。

 もともとジーンズやチノパン、スラックスの裾だった生地から糸をほどき、アイロンをかけて裁断した小さな一枚一枚を縫い合わせていく。ベルト通しやポケットを含め、ファスナーとボタン以外はすべて端切れ製という真新しいズボンの誕生だ。

 谷口さんはこの授業で100枚におよぶデザイン画を描いたといい、「端切れは形や色、素材がどれも違っていて作業工程が多いし、選別や保管も大変」と苦笑する。

 その一方で、「つなぎ合わせ方や裁断の仕方で自由に表現できる面白さがある」と言葉を続け、出来上がりや履き心地には確かな手応えも。最初は1本の完成まで2週間ほどかかっていたが、こつをつかんで3日ほどで仕上げられるようになった。友人に端切れからできていることを伝えると一様に驚かれ、「格好良くておしゃれ」「穿いてみたい」などと好評という。

 4年生になってからは卒業制作として取り組み、縫製やデザインなど製品としての完成度を高めることに注力。さらに大学内だけでなく、より多くの人に広く知ってもらおうと、これまでの自身の活動や思いをまとめ、連携を提案した企画書を服飾メーカーなど約30社に送付した。

 回答がなかったり断られたりすることが続く中、ユニクロを展開するファーストリテイリング(東京)のサステナビリティ部ビジネス・社会課題解決連動チームの目に留まった。同チームの荒木友莉恵さんは「身の回りの課題に対して行動を起こし、多くの人に伝えようとする姿勢に共感した」と話し、京都河原町店での作品展示につながった。

 これまで完成した13本のうち、ベージュやカーキ系のグラデーションが特徴のズボンや、あえて縫製せずほころんだ糸がアクセントの作品など個性豊かな計6本を展示している。「SUSO」のプロジェクト名で、廃棄の実情や作業工程の紹介に加え、実際の生地も並べている。

 また、地域連携や障害者自立支援の一環で、同店では展示に合わせて端切れを使った小物作りも企画した。谷口さんが考案したデザインや手順を参考にして、「かめおか作業所」(京都府亀岡市)の利用者ら8人が、コースターや巾着、ティッシュケースを制作。糸をほどいたり、ひも通しをしたりと分担して出来上がった温かみのある製品は買い物客に配布された。

 谷口さんは今春から、ファーストリテイリングの社員として働くことが内定している。「アルバイトをしていて現場でもっと経験を積みたい思いがあったし、将来はサステナビリティのチームに関わってみたい。端切れから作った作品もいつか商品として販売できるようになれば」と夢を描く。

 今回の展示については「多くの人が何げなく裾直しをしていると思うけど、一枚一枚の端切れが積み重なると膨大な量になる。作品が持続可能性を考えるきっかけとなり、新しいファッションの提案、社会の課題解決にもつながれば」と思いを語る。京都芸術大の卒業展(2月4日~12日)では、全13作品を並べる予定。ユニクロ京都河原町店での展示は1月29日まで。

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