下北半島にある青森県下北郡東通村に、空から見るとまるで「目」のような形に造成された集落がある。その名も「ひとみの里」。
なぜ全国的にも珍しい形に造成されたのか、東通村役場に伺った。
川に沿った地形を活かし「目」の形を意識して開発
「ひとみの里」は、本州最北東の村でもある東通村の中心地・砂子又地区にある。山に囲まれた平地に造成され、空から見ると、自然が広がる緑の中に突如現れた大きな瞳のようだ。
村の中心地整備計画により、元々は田畑だった用地を買収。南北に大きく湾曲して流れる田名部川に沿って、分譲地や公園と併せて生活関連道やなどを配置し、計画段階から目の形を意識していたという。
村で愛称を公募した結果「ひとみの里」と決まり、分譲地エリアを「ひとみの里住宅団地」、開発された地区を「里地区」として今に至っている。
特徴ある形状から、村の外部からの問い合わせも多いのではないかと想像したが、それほど多くはないらしい。
「分譲地が瞳の形であることから、パンフレットやチラシをご覧になる方から珍しがられることはありますが、外部から問い合わせや反響などは特にありません」
では今、「ひとみの里」には、どれくらいの人が住んでいるのだろうか。
東通村役場の2022年12月末における住民基本台帳によると、259世帯523人だそうだ。
「砂子又地区内にある『ひとみの里』は中心地エリアとして考えており、ひとみの里住宅団地(分譲地)、一般住宅の他、村営住宅、集合住宅、企業の寮、アパートも含まれております」
ちなみに東通村全体の世帯数は2828世帯、人口は5923人。砂子又地区には300世帯があり、625人が住んでいるという。
村内には日本最大級の砂丘がある
「ひとみの里」がある砂子又地区は現在、東通村の中心地だが、かつては中心地ではなく村役場もなかった。正確にいうと、役場はあったけれども村内に置かれていなかった。
交通が不便なため、戸長役場(現在の町村役場の前身にあたる)が開設されて以来、隣接するむつ市に役場が置かれるという、全国でも特異な村となっていたのだ。
1988年10月1日、村政100周年を迎えるのを機に現在の砂子又地区に役場を移し、中心地整備が行われてきたという。
そのような事情もあって、現在では村役場の庁舎、体育館、消防署、診療所などの公共施設の他、認定こども園、小学校、中学校といった教育施設も整備され、近代的な外観で真新しい印象がある。
とりわけ異彩を放つのが、村役場庁舎に隣接して建つドーム型の交流センターだ。斬新で冒険心に富んだデザインは、いわゆる「お役所」のイメージとかけ離れていて面白い。
ところで、下北半島といえば、雪国のイメージが強い。冬の生活はさぞかし厳しそうだが、実際はどうだろうか。
「2020年の気象庁データによると、8月の平均気温は22.9℃、1月の平均気温は0.7℃となっており、比較的過ごしやすい気候となっています。また、夏の最高気温は27.0℃、冬の最低気温がマイナス7℃になって、水道が凍結することもあります。とくに冬季は12月から3月頃まで降雪があるため除雪・雪かき作業が日課となります。」
また、「ひとみの里」からは離れるが、東通村には日本最大の砂丘がある。砂丘といえば、鳥取県にある鳥取砂丘が観光地として有名だ。
しかし、東通村には南北17km、東西最大2kmにわたる、面積では日本最大級の猿ヶ森(さるがもり)砂丘がある。だが、ほとんどの部分は、一般人が立ち入ることはできない。
その理由は、猿ヶ森砂丘は防衛装備庁が管理しており、弾道試験場として使用されているのだ。そのため観光目的での立ち入りが制限されている。北部の尻労(しつかり)と南部の小田野沢の一部は「鳴き砂」の浜として有名で、砂浜が乾燥しているときに砂浜を歩くと、石英を多く含む砂どうしがこすれて、キュッキュッという音が聞こえるそうだ。
空から見た「目」に惹かれて東通村に関心をもったわけだが、取材を進めていくと砂丘があったり鳴き砂があったりするほか、ブルーベリー、東通牛(黒毛和種)、(加工品を含む)、外海地まきホタテ、東通そばなどのグルメも楽しめることが分かった。
このような新しい事実も発見できて、魅力溢れる土地であることが“見えた”取材だった。
◇ ◇