コツメカワウソ赤ちゃんの巣箱に「汚い軍手」入れっぱなし…なぜ? 動物の野生を守りながら母親の育児も支える動物園の思い

茶良野 くま子 茶良野 くま子

「汚い軍手」と思われる方もいらっしゃるかもしれません—

山口県の周南市徳山動物園がコツメカワウソのちっちゃな赤ちゃんをかなり黄ばんだ軍手でそっと抱き上げる画像を添え、こうツイートしました。

「この軍手は巣箱の中にいつも入れています。そうすることでカワウソたちと同じにおいになり、赤ちゃんの健康チェックを行う際この軍手をつけることで、母親が気にするリスクを減らすことができます」

飼育担当の大内珠里さんに聞きました。

同園のコツメカワウソのコト(6歳)は2022年12月1日、3頭の赤ちゃんを出産。父親はササメ(4歳)です。

—なぜ汚れたままの軍手を?

 「出産に備え、巣箱に1組の軍手を入れました。初日は見慣れない物だったからかコトが外に出してしまいましたが、翌日には自分で咥えて巣箱へ。赤ちゃんに触れる際はビニール手袋をはめた上にこの軍手をはめます。匂いですか? かなりすると思いますが、寝室自体がカワウソの匂いですし、コロナ対策でマスクをしているので…よく分からないです」

—「母親が気にするリスク」というのは?

「自分以外のにおいがつくと母親が育児放棄したり、赤ちゃんを嚙み殺してしまったりというリスクがあるんです。レッサーパンダやコツメカワウソなど、食肉目の出産に備える際はいつも巣箱に軍手を入れておきます。無理に赤ちゃんの健康チェックをすることはしませんが、何かあったときのお守り代わりといった感じです」

—赤ちゃんの健康チェックの時は?

「コトには寝室から出てもらい、別の場所でエサを食べてもらいます。子育てにかなりエネルギーを使っているので食欲が増しており、赤ちゃんを気にしながらもわりとすんなり移動してくれます。食べ終わると赤ちゃんが気になって鳴き出すため、素早く終わらせるようにしています」

—巣箱の中には布も。

「古着のトレーナーで、1~3日ごとに水洗いしています。巣箱内はきれいに保ちたいようでトレーナーが汚れると自分で外に運び出します。出す様子がない時でも洗ったものを側に置いておくと中に運び入れて、汚れた方を出してきます。他の個体のものと混ざらないようコト専用が数枚あります」

コトにとって今回が初出産。コツメカワウソはペアで子育てをする動物ですが、「ササメはコトが大好きでじゃれて遊ぶのですが、ヒートアップすると噛みついてしまうことがあって。そこで、不安要素を少しでも減らすため、別居して出産・子育てしてもらうことにしました」とのこと。

最近では家でも飼えるようなイメージを持たれがちなコツメカワウソですが、絶滅の危機にある野生動物です。「汚い軍手」の存在を伝えたツイートには、「優しい軍手」「命をつなぐ軍手」「尊い…」などの声が寄せられ、生態をもっと知りたいというコメントも見られました。

「動物園では可能な限り野生に近い行動を引き出す工夫をして、子育ても動物に任せていますが、生育の様子を記録することは、種の保存や調査・研究という動物園の役割のために必要であり、この『汚い軍手』は欠かせません」と、Twitterの公式アカウントを担当する橋本千尋さん。「野生の姿を伝えてくれる動物たちへの感謝、尊敬の気持ちを忘れることなく、動物たちが伝えてくれることをしっかりキャッチしてお届けできればと考えています」 

赤ちゃんの性別はオス1頭、メス2頭。今は巣箱の中で過ごし、母親はお乳をあげたり体をなめて排泄を促したりと、子育てに懸命です。生後48日目には一緒に巣箱から出てよちよち歩く姿も確認され、順調に育っています。

同園では今後、母子や父親の様子を観察しながら家族みんなでの同居、春頃の一般公開を目指しています。

〔画像は周南市徳山動物園公式ツイッターから〕

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