パンダ双子誕生で気になる上野動物園「子育て」舞台裏 2匹とも確実に育てる秘策は「入れ替え戦法」!?

國松 珠実 國松 珠実

東京の上野動物園のパンダ「シンシン」が双子を出産、という素敵なニュースが飛び込んできました。つい先日「妊娠の兆候が……」といわれていたのに、もう出産?とびっくりです。

そんなパンダの妊娠や出産、子育てについて、和歌山のアドベンチャーワールドのパンダ一家「浜家」を見守り続けるパンダライターにして、「明浜」「優浜」の名付け親、さらには神戸市立王子動物園のジャイアントパンダ「タンタン」の連載も持つ二木繁美さんに聞きました。 

双子相手に、飼育担当者も24時間体制!

――前回のシャンシャンは一人っ子、今回は双子の誕生ですね。

上野動物園は、日本で初めてジャイアントパンダを飼育した実績があり、パンダの繁殖にも力を入れてきた園です。リーリーとシンシンの子としては、2017年にシャンシャンが生まれて以来4年ぶり!その上、初の双子です。パンダを担当する8名の飼育員と5名の獣医師のみなさんは、これから数カ月の間、24時間体制で母子の観察とサポートをするそうです。

――具体的には?

例えば、2頭とも確実に母乳を飲ませるために、ツインスワッピングという方法を採ります。授乳の済んだ1頭を母親のシンシンから取り上げて保育器に入れ、入れ替わりでもう1頭に授乳させるといった具合ですね。これは、1990年に中国成都動物園で成功した方法で、パンダの繁殖実績が多いアドベンチャーワールドでも取り入れられています。この方法が確立してから、双子パンダの育成率は90%近くまで上がったんですよ。

――母乳を飲んで、今からどんどん大きくなりますね。

パンダの赤ちゃんは、100gから200gほどの重さで誕生しますが、100g以下で生まれた赤ちゃんの死亡率は高いんです。今回の赤ちゃんは124gと146g。2頭とも健康状態も良好とのことで、少し安心しています。シンシンと赤ちゃんの近況は、毎週火曜日と金曜日の15時に、上野動物園の公式サイトで発表されています。

――シンシンが双子を抱っこする姿が、早く見たいです。

見たいですね。お姉さんのシャンシャンが生後半年ほどで公開されているので、その例を踏まえると今年12月頃にはお披露目されるかも。ただ、同じ12月にシャンシャンの中国返還が予定されているので、今のところは、年明けに一般公開というスケジュールが濃厚ですね。

――やはりシャンシャンは帰りますか……。

日本のパンダファンにとっては、むしろ中国からオスに婿入りして欲しいですよね。ただ、パンダは日中共同繁殖研究のもと、繁殖を目的として中国から貸与されているんです。また、中国の施設にはパンダがたくさんいるので、シャンシャンにとっては相性の良い相手を見つけやすく、自然繁殖のチャンスも増えます。

――なるほど。人工授精の場合は麻酔も行うので、パンダにとって命の危険を伴います。やはり自然繫殖が安全で、望ましいですね。

あと中国には、アドベンチャーワールド生まれの「浜家(ハマケ)」と呼ばれる一大勢力がいますが、シャンシャンはリーリーとシンシン初の子どもで、新しい血統です。遺伝的な多様性という意味でも、シャンシャンは中国でも歓迎されると思います。

 双子は珍しくない?パンダの妊娠、出産あれこれ

――愛らしい姿を見せるためだけに飼育されているのではないんですね。そんなパンダの、妊娠から出産までを教えてください。

パンダは年に1回、春に発情期を迎えます。その中で交尾可能な期間は2~4日ほどしかないので、飼育下では尿検査などを実施してホルモンの値を見ながら、タイミングを図ります。時期が来たら、まずオスとメスの運動場を入れ替えるなどして互いのニオイを嗅がせ、メスの発情を確認してから同居させ、交尾に至ります。オスの発情は、メスに誘起されるそうなので、まずはメスをその気にさせるところからですね。

――マーキング(ニオイ)がポイントですね。

はい。そうして妊娠するのですが、パンダの妊娠期間は幅があって、大体90~150日。これは、パンダが持つ着床遅延という繁殖のメカニズムによるもので、着床するタイミングが個体によって異なるためです。そのためお母さんパンダのホルモンやお乳の状態、仕草を観察・推察します。パンダは、妊娠を維持する黄体ホルモンの分泌が続くことによって、妊娠しているかのような変化が見られる「偽妊娠」という状態になることもあるので、慎重な見極めが必要です。

――双子は珍しいのですか?

双子で生まれる確率は約45%で、珍しくはありません。ただ、厳しい自然界では2頭のうち、丈夫な方だけを育てます。そのため、2頭を抱っこする姿は飼育下でしか見られない光景でしょう。無事に生まれても10日ほどは安心できません。パンダは未熟な状態で生まれるので、飼育下でも死産、または数日で亡くなることも珍しくないのです。

――そういえば、シャンシャンの前に生まれたパンダは数日で亡くなっています。上野動物園にとってパンダの誕生は悲願。しかも初の双子で、喜びはひとしおでしょう。そうして約1年間一緒に暮らし、親離れしていくんですね。

もともとパンダは単独で生活する動物です。もちろん野生のパンダも。そんなパンダたちにとって大切なのが、繁殖期に行うマーキングです。パンダは普段、個体同士の対面を避けていますが、繁殖の時期はマーキングで、自分の存在や健康状態を他の個体にアピールするんです。嗅覚のコミュニケーションによって、オスとメスが互いの存在を感じ取り、出会い、繁殖するんですよ。

 知ってた?関西はパンダ王国

――上野動物園では、現在シャンシャンのみ公開のようですね。

上野動物園では、パンダの展示は東園と西園に分かれていて、現在東園にいるシャンシャンのみが公開されています。西園の「パンダのもり」にはリーリーとシンシン、双子の子どもたちがいますが、子育てに専念してもらうためにも当面非公開となるようですね。

――公開が待ち遠しいですね。

本当ですね。コロナ禍が落ち着いたらぜひ、パンダ王国、関西にもお越しください。神戸の王子動物園には「神戸のお嬢様」と呼ばれる、メスのジャイアントパンダのタンタン(旦旦)が。そしてアドベンチャーワールドには、昨年11月に誕生した赤ちゃんパンダの楓浜(ふうひん)をはじめ、7頭のジャイアントパンダがいます。特にお母さんの良浜(らうひん)は、これまで7回の出産で10頭のパンダを育てた大ベテラン。楓浜の様子は、毎日動画で配信されています。のんびり過ごす彼らの様子にぜひ癒されてください。

   ◇   ◇

▽上野動物園
https://www.tokyo-zoo.net/zoo/ueno/

二木繁美さんは現在、「現代ビジネス」にて王子動物園のタンタンの日常を綴った「水曜日のお嬢様」を連載中。
▽Twitterアカウント @Pandaexn
▽「水曜日のお嬢様」
https://gendai.ismedia.jp/list/author/nikishigemi

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