北海道はロシアが、沖縄は中国が攻めてくるから…「進学先はダメ」 国公立大医学部の進路指導のベテラン、新しい「選択理由」にとほほ…

渡辺 陽 渡辺 陽

国公立大学の医学部を目指して日夜勉強に励んでいるでしょう。しかし、どうやら最近変わった事情で「お母さんがだめ」と、NGを出す大学もあるようです。その事情とは…?

30年以上、関西の医学部受験予備校で指導をしているという掛谷拓也さん(@3FILMS)がTwitterに「国公立医学部の進路指導中だが、共通テストがうまくいかなかった現役生がいて、旭川医大はロシアが攻めてくるし、琉球大学医学部も中国が攻めてくるのでお母さんがダメだと言ってます、という新しい進路選択の理由が現れた」と投稿しました。

しかもこのツイートには「南海トラフが怖いから和歌山県立医大はダメだ」とか、「弟さんを日本海側にしてリスクを分散させましょう」などと提案するツリーが続いています。

ツイートを見た人からは、

「関東は地震が多いからダメだと母親が言い、熊本大学に進学してそこで見事に地震で被災した人を知ってます。そのお母様にお伝え下さい」
「あえての防衛医大とかですかね」
「まず母親を然るべき医療機関に受診させる必要が」

など、さまざまなリプが飛び交っています。

ロシアや台湾の有事はさておき、お受験戦争の実態は今どうなっているのでしょうか。掛谷さんに聞きました。

ーー浮世離れした進路選択ですね。

「共通テストの結果を受けて、急遽、こうした大学も視野に考えなければいけなくなったご両親や受験生はみんな不本意なんです。でも、どうしても国公立という縛りを外せない。もしかしたら受かるのではないかという希望を抱いてしまう。しかし、共通テスト75%以下では、旭川医大であろうと琉球大学医学部であろうと、まず受かることはありません」

ーー和歌山県立医大もダメだとか真面目に言っているのですか。

「保護者の方からそういう声を聞くことはありますが、最近、医学部に限らず地元の大学を受験したいという志向が強くなっています。滋賀医、奈県医、和県医の中では偏差値が一番低いので、和県医をおすすめすることがよくありますが、最初の提案の時点では、『えええー!』という反応です(笑)」

ーー関東も首都圏直下型地震の危険がありますよね。

「不安なのでしょうが、東大、慶應に合格できる受験生は、その不安を打ち消すだけのメリットを優先していると思います」

ーーどこが安全かと言い出したらキリがないのでは。

「本人も保護者も偏差値で選ぶことには納得しています。しかし、同じ偏差値帯で選択の余地がある場合に、災害などの不安が出てくるという感じです。その次に、大学の特徴や得意な研究分野で決めるのではなく、戦争の可能性が出てきたというのには驚きました。戦争リスクがあるので入りやすいですよという話を今後することがあるのかどうか…」

ーーリスクの高い大学ほど入りやすいのですか。

「関西ですと滋賀医、奈県医、和県医の中では実際、和県医が一番偏差値が低くて入りやすいです。これに災害リスクがどの程度折り込まれているのかは私には分かりません。ただ、首都圏直下型地震のリスクで、関東の医学部を選ばない人は少ない気がします。東大、医科歯科、慶應、日医、慈恵、順天のレベルの大学は他にありません」

ーー 医師は、昔ほど期待されるような職業ではなくなっているのでは。

「そうですね。東大理Ⅲ離れとか国公立大医学部医学科の志願者1割以上減などと報道されていますし、私も何がなんでも医学部とは思っていません。特に本邦に必要なのは、産業構造改革、コンピュータサイエンスを用いたイノベーションに必要な人材でしょう」

ーー保護者の方はどうですか。

「成績最上位者の保護者で、子弟を何がなんでも医者にという方は少なくなってきた印象はあります。何がなんでも子供を医師にしたいと思っているのは、一部の開業医でしょうか。苦労して大きくした病院を他人に渡したくないんでしょう。これは理解できる部分もあります」

ーー女性の場合いかがでしょうか。

「実際に巨大IT企業のGAFAMに就職できるのは、トップ層のほんの一握りの学生だけです。ですから、このトップ層の下にいる場合、医師を目指すメリットは多いでしょう。特に女性が医師を志すのは、女性医師の割合を増やす意味でも、彼女たち個人の人生の自由度を高めるためにも意味があると考えています」

医師になるメリット、偏差値、安全性、将来性…と考えればキリがないのでしょうけど、どんな職業でも志なくしては面白くないでしょう。起こるかどうか分からない戦争の心配をするより、学生本人の意志を尊重してはいかがでしょうか。

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