仕事をしながらの子育てには、子どもの成長にあわせて仕事との両立をはばむ壁がつきものです。保育園入園、小学校入学、小学校4年に上がる時…受験もそのひとつといえるかもしれません。特に中学受験は「親の受験」といわれるほどで、親子一丸となっての準備が求められるといいます。働く親にとっては大きな負担で、共働きをやめる選択をする家庭もあるほどだそうです。
その一方で、近年は働く時間や場所などを選択でき、多様な働き方を可能にする制度が少しずつ各企業で導入されてきています。ヤフー株式会社でも、「週休3日」「在宅勤務」といった制度を利用し、中学受験と仕事との両立を実現した社員がいたそうです。詳しい話を聞きました。
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「中学受験は家族のビッグイベント。全力で支えてあげたいと思った」と話すのは、法務部門で働く都内在住の和田山加代子さん。この春から私立中学校に通う娘さんの受験をサポートするため、当初夫が単身赴任だったこともあり、今年3月まで約1年半ほど「週休3日」を選択。自宅での勤務が可能な「どこでもオフィス」の制度と組み合わせ、家族のための時間を作ってきました。
――週休3日で時間を作っての中学受験のサポート。具体的にどのようなことをされてきましたか?
「もともと私は1日5時間の時短勤務で、塾のスケジュールにあわせ、休みを1日追加して週休3日にしていました。増えた休みの日を使って、子どものために『自前の教材』を作ったりしていました」
――えっ、自前の教材ですか?
「ご飯を食べている時など空いた時間に、理科や社会といった『記憶系』の勉強ができるように、一問一答形式の問題集を作っていました。マンツーマンで私が質問して、娘に答えさせるようなかたちですね。間違えた問題はピックアップして、あとで再出題したりもしていました」
――人体の構造に、地球温暖化防止に向けた世界の動き…作成された“問題集”の内容とクオリティーに驚いています
「大人でも分からないよ、というような内容ばかりですよね。親もこの機会に学びなおしていった感じです。最終的にはA4の大きなファイル3、4冊分くらい問題集は作りました。ちなみに娘と私が勉強しているのに触発されて、当時小学校2年生の下の子(弟)も、勉強して『国旗検定1級』を取ったりもしたんですよ」
制度のおかげで…「2足のわらじ」ができる可能性をもらえた
――そこまでの意気込みで中学受験をサポートしようと思ったきっかけは?
「実は、私も中学受験経験者だったのですが、母親は私のような会社員ではありませんでした。娘の受験をサポートする時、自分がしてもらったよりも少ないエネルギーと時間しか娘にかけられないということが気がかりでした。でも自分が大人になって仕事を始めてみると、やはり楽しいし、もっとしっかり働きたいという気持ちがあります」
「受験は家族にとって大きなイベントなので、お母さんがあまり関わってくれないとなると、子どもとしては『もっとママが仕事をセーブしてくれたらいいのに』と感じると思いました。しかし逆に仕事をセーブして自分が我慢するのもいやだとも感じていました。ヤフーの週休3日・在宅勤務の制度を使うことで、家族のサポートも全力でできましたし、仕事でも大型案件に参加するなどそれまで以上に効率よく全力で取り組めたと思っています。週休3日などの制度があることで、『2足のわらじ』ができる可能性をもらえたのは、よかったと思います。悩んで会社をやめちゃおうかな、と思っていた時期もあったので…」
――働く日数が1日減って、お仕事は大変ではありませんでしたか?
「最初のころは慣れないこともありましたが、効率よく回せられるようになりました。コロナの関係でリモートワークに会社全体がシフトしたことも関係しています。Zoom(インターネットのビデオ会議アプリ)やSlack(ビジネス用チャット/リアルタイムにテキストのやりとりができるサービス)など、コミュニケーションツールが整備され、全員が使いこなせるようになると、効率がめちゃくちゃ上がるんですよね。自分は当時マネージャーの職についていたので、部下のみんなにツールを使いこなすための講座を開くなど、ノウハウを共有するようにしていました」
――会社のみなさんの理解があったのもよかったですね
ヤフーでは育児や介護などの事情に合わせて働きやすい環境が整っており、私もスケジュールを調整してもらうなど、周囲の社員にも理解してもらっていました。ヤフーでは仕事が好きな人は多いですが、『プライベートをエンジョイできての仕事だよね』という価値観の人が多いこともあり、こういった調整も当たり前のこととして受け止めてくれました。私自身も今回の勤務を経て、同僚の人生のライフステージごとの働き方に理解や想像力を持てるようになったと思います」
――同じような悩みをかかえている社員の方がいれば、どのような助言をされると思いますか。
「私自身が『週休3日』をやってみようと思ったのも、先輩社員の働き方を見たからでした。小1、小4、中学受験と、子育てにはいろいろな壁があり、仕事との両立が難しいと感じる人は多いかもしれません。しかし、会社の制度を使い倒せば、退職せずに働き続けることができるかもしれません。私のような事例を参考にしてもらえたらと思います。なお、下の子が受験する時には、多分また制度を利用すると思っています」
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なお、多様な働き方をすすめるヤフーでは、働く場所や環境を自由に選択できる「どこでもオフィス」制度拡充後、130人以上の社員が飛行機や新幹線での通勤圏へ転居したといいます。また制度導入を契機に、中途採用の応募者が1.6倍に増加。なかでも一都三県以外の地域からの採用応募者が月ごとに増加するなど、これまでヤフーで働くことが難しかった地域から応募する人が増えているそうです。
▼「どこでもオフィス」拡充 ヤフーは2022年4月、社員の通勤手段の制限を緩和、居住地が全国に拡大された。これまでの同制度では、国内なら好きな場所で働けることになっていたが、居住地に関しては、出社指示があった際、午前11時までに出社できる範囲に限定されていた。制度拡充とともに午前11時ルールが撤廃され、国内であればどこでも住めるようになった。出社は電車、バス、新幹線に加え、特急や飛行機、高速バスも可能になった。交通費は15万円まで、どこでもオフィス手当や通信費補助計1万円、社員間の懇談会費5000円(いずれも月あたり)。希望者にはタブレット貸与。対象は全国の正社員、契約社員、嘱託社員の約8000人。
▼「えらべる勤務制度」 ヤフーは2017年4月より、小学生以下の同居の子を養育する従業員や、家族の介護や看護が必要な従業員を対象に、土日の休日に加え1週あたり1日の休暇を取得できる「えらべる勤務制度」を導入した。従業員の平均年齢が35.7歳(2016年12月31日現在)となり、介護などを理由に退職せざるを得ない従業員が少しずつでてきている状況をふまえたもの。月単位で申請や変更(曜日変更、解除)が可能で、例えば、小学校の夏休みにあわせて8月のみ制度を利用するといったことも可能。なお、制度利用により取得した休暇分は無給となる。