シェルター卒業しホーム犬に 殺処分対象だった元保護犬の転身 施設の高齢者やスタッフの笑顔が増えた

松田 義人 松田 義人

 

保護犬の譲渡活動を通じ、「殺処分ゼロ」の実現を目指すピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)。

同団体にやってくる犬たちは野犬が多いため、最初は人に慣れていないことがよくあります。しかし、スタッフと一緒に散歩をしたり、触れ合ったりといった人慣れトレーニングをすると、少しずつ心を開き、本来の性格を自然と表し出すワンコたちばかりです。

こういったワンコのうちの一頭が三春でした。

三春は、環境が変わるとごはんを口にしなくなるような繊細な面がある一方、同団体のシェルターなどで不特定多数の見学者が訪れても、あるいは、他のワンコが吠えまくっていても、犬舎の真ん中に座ったまま、おとなしく佇んでいられるほど、肝の据わったワンコでもありました。

高齢者施設が「ワンコの殺処分」という社会問題に貢献

 

同団体は保護犬の譲渡活動をしていますが、新たに迎え入れてもらう先は一般家庭に限りません。ときに高齢者介護施設に「ホーム犬」として譲渡され、入居者の癒しやリハビリの手伝いをするワンコもいます。

同団体の卒業犬・ターチもそのうちの一頭で、神奈川県秦野市にある高齢者介護施設に迎えてもらいました。

同施設を運営する会社は、神奈川県内で6つの高齢者介護施設を経営しており、元保護犬のホーム犬5頭を各高齢者介護施設で「正社員」として迎えいれました。

高齢者介護施設の入居者は、部屋から出ることが少なくなりがちなのですが、ワンコがいると犬に会うために部屋から出るようになったり、ホーム犬とのボール遊びが入居者のリハビリになったりし、入居者やスタッフの笑顔も増えるのだそうです。これらのことから同社では「高齢者介護施設がホーム犬として保護犬を迎えれば、殺処分という社会問題にも貢献できるので、ホーム犬を受け入れるときは元保護犬から」と決めています。

同社の高齢者介護施設でのターチの活躍を受け、同社では、2020年の春先に「ターチに続くホーム犬を迎えたい」と団体側に依頼しました。ただし、新型コロナウイルス感染拡大によって緊急事態宣言が発出。宣言の解除後に何度かの打ち合わせを経て、ようやく同年8月、3頭の候補犬たちがお見合いをすることになりました。

お見合いを経てトライアルを獲得した三春

 

お見合いでは3頭の候補犬が揃って、同社のスタッフと散歩をしたり、触れ合ったりしました。そのうちの一頭が三春だったわけですが、前述の通りもともと肝が据わっているワンコ。お見合いの場でも、すぐに同社のスタッフと打ち解け、アイコンタクトを取ったりするといったいつも通りの落ち着いた様子でした。

同社のスタッフは、お見合いに来た3頭に対し「全頭迎えたい!」と申し出ましたが、3頭それぞれの性格を確認し、また、散歩した際の様子を観察するなどし、さらに適正なども考慮して、三春がまずトライアルをすることに決まりました。

保護犬たちによる社会貢献のお手伝いがもっと増えると良い

 

お見合いから数日後、同社運営の高齢者介護施設で、三春はトライアルに入りました。施設には前述のターチがいる他、また、施設専属のドッグトレーナーさんもいます。

しかし、到着後の三春はやや緊張気味で、クレートからなかなか出ようとしません。場の雰囲気に対する警戒力が高く繊細な性格が、ここでもまた出てしまったようです。

しかし、多くのスタッフ、ドッグトレーナーさんが「悪い人たちではない」と理解し、少しずつ笑顔を見せました。ドッグランに行けば笑顔で散歩、ドッグランから室内に戻ったときには匂いをクンクン嗅ぎながら施設内を探検。初日の夕飯こそ、「ごはんに口をつけない」といった緊張している様子がうかがえましたが、次第に施設にとけ込んでいき、トライアルを終了。シェルターを卒業し、ホーム犬という「正社員」として迎え入れてもらうことができました。

今日ではスタッフや入居者の皆さんにかわいがっていただきながら、三春自身も楽しそうに暮らしています。

同社スタッフは「三春やターチの活躍を沢山の人に知っていただき、高齢者介護施設での保護犬の受け入れがこれまで以上に増えると良いと願っています」と言います。

「殺処分」の対象だったワンコ。でも、その命を救えば多くの人たちと共存し、多くの感情を行き来できるような「大事な友達」です。三春やターチのようなホーム犬の活躍をきっかけに、保護犬たちによる社会貢献の場が増え、保護犬を迎える選択肢の一つとなると良いなと思いました。

ピースワンコ・ジャパン
https://peace-wanko.jp/

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