映画館とカフェを融合した新感覚のマイクロシアター「Movie's cafe MATERIAL tanimachi(ムービーズカフェ マテリアル タニマチ)」(大阪市中央区)が厳しい環境を乗り越え、12月に4周年を迎えた。埋もれてしまいそうな良質な作品をセレクトして上映。カフェやランチも好評だ。元イタリア料理店のオーナーシェフで俳優、脚本家でもある代表の長壁(おさかべ)吾郎さん(53)に、立ち上げた思いと今後の展望を聞いた。
大阪では珍しいマイクロシアターは大阪メトロ「谷町四丁目」と「谷町六丁目」のほぼ真ん中の所にある。近くにはNHK大阪や大阪府警などがあり、大通りから一歩中に入ると寺や教育施設、個人経営の落ち着いた飲食店も多い。そうそう、大相撲から生まれた言葉でスポンサーや後援者を意味する「タニマチ」の語源になったあたりでもある。
オープンしたのは2018年12月。合同会社「チームマテリアル」の代表で中之島映画祭の審査委員を務めていた長壁さんが、たくさんの素晴らしいインディーズ作品に触れ、ぜひ広めたいという思いに駆られたからだという。
建物の2階にあり、階段を上ると、そこは日常を離れ、映画好きにはたまらない空間が広がっていた。上映室は14坪で20席。130インチのスクリーンがあり、こぢんまりとしていながらもゆっくりと鑑賞できる。上映しないときはカフェにもなり、ランチも評判だ。
もともとは雀荘だったそうだが、防音設備を整え、黒い幕を設置しているから当然、画が引き締まる。「スピーカーもいいですし、皆さん、観やすいとおしゃってくれます」と長壁さん。確かに、家で寛いでいる感覚でいながら程よい緊張感もあり、劇場での迫力や音響を同時に味わえるところがマイクロシアターのいいところだと実感できた。
長壁さんは京都・与謝郡出身。音楽をやりたかったそうだが、18歳から大阪でイタリア料理を学び、27歳で独立した。その後、映画の世界に興味を覚え、通勤途中にあった「日本放映プロ」の看板を目にして31歳で応募した。しばらくは役者との二刀流を続けていたが、やがて店を閉め、劇団に入所。俳優業に本腰を入れ、「リーブ21」「アート引越センター」などのテレビCMに出演するようにもなった。
ところが、人生何が起こるか分からない。40代半ばを迎えた頃、緑内障のために視力が急激に低下。そこで役者を断念し、今度は大阪・西中島にあるシナリオセンター大阪校で脚本を学んだ。現在は劇団「演劇派Color's」も主宰している。
「カラーズもマテリアルもそうですが、いろんな色、いろんな人が交じり合っている方が楽しいと思うんですよ。それに今は目が見えにくくなっていて、バイクも車も運転していません。そんな状況になったからこそ、みなさんにはいい映画をどんどん観てもらいたいと思うようになりました。コロナ禍で大変な時期も続きましたが、ようやく上映作品も増え、配給のついた作品も提供できるようになりました」
味わい深い上映作品とともに、映画監督や俳優と触れ合えるところが、この施設の魅力のひとつ。また多彩な企画も用意しており、音楽ライブを実施したり、クリスマス特別企画として12月23日から25日にかけ、1日に4回、3時間5000円で上映スペースを貸し出すという。
大阪市内には第七藝術劇場、シアターセブン、シネ・ヌーヴォ、プラネットプラスワンといった味わい深いミニシアターがあるが、隠れ家的な雰囲気を求めるなら、ここが一番かもしれない。
長壁さんは最後に「皆さんにはいろんな作品、知らない分野の作品を観ていただきたいですし、この場所が監督や役者、映画ファンの交流の場になればと思います。そして将来、このようなマイクロシアターがどんどん増えて、谷町が映画の街になれば、いいですね」と映画愛を熱く語ってくれた。
大阪の中心部のこんなところに、こんな居心地のいい空間があったんだ、と思えるような場所。会社帰りに一度、のぞいてみてはいかがだろうか。
◇「Movie's cafe MATERIAL tanimachi(ムービーズカフェ マテリアル タニマチ)」
大阪府大阪市中央区内久宝寺町3-2-1-2F
06-6777-9193
https://www.team-material.xyz/movie/ (ホームページ)
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