仮面ライダーにキカイダー…学生街のラーメン店なのにあふれる「昭和感」 元映画監督志望、店主の“特撮愛”が強すぎる!

山陰中央新報社 山陰中央新報社

 島根大(島根県松江市西川津町)近くに、ウルトラマンやゴジラといった昭和時代の特撮作品のフィギュアが並ぶ、ちょっと変わったラーメン店がある。学生街にある店でありながら、どこかレトロな雰囲気が漂う不思議な店を訪ねた。

 島根大正門から西に約300メートのビルの1階にあるラーメンゴイケヤ(松江市菅田町)。店内(40平方メートル)に入るとすぐ右側に、約60体のフィギュアが並んだショーケースが目に入る。ウルトラシリーズをはじめ、仮面ライダーやゴジラ、人造人間キカイダーと種類は幅広く、昭和を代表する特撮作品のキャラが一堂に会していた。

 ショーケースのすぐ上の棚に置かれたテレビでは、ウルトラマンや仮面ライダーが怪獣や怪人と戦う様子を上映する。代表の周藤啓悟さん(49)によると、テレビでは特撮作品に加えてキン肉マンや北斗の拳といった、周藤さんが好きな昔のアニメのDVD映像を流し、仕事の片手間に眺めるという。

 店内で「昭和ゾーン」と呼ばれる一角は狭いスペースだが存在感がある。ラーメンを食べながらも、視界の端のテレビに映る映像をつい目で追ってしまう。

 自分の好きな空間に

 昭和ゾーンは周藤さんの趣味を前面に出したもの。周藤さんが幼い頃、テレビでは特撮やアニメ作品の再放送が毎日のようにあり、作品とともに育ってきた。特撮やアニメ作品のおもちゃは「小学生の頃から集め続けている」と周藤さん。

 古いおもちゃ屋や問屋を回るのはもちろん、売買したい物の情報を雑誌に掲載したり、ネットークションを利用したりして収集したグッズの総数は千点以上。店にあるのはコレクションの1割にも満たないとは驚きだ。周藤さんは「最近は多少落ち着いたが、独身の頃は給料のほぼ全部をつぎ込むぐらいだった」と笑った。

 周藤さんが魅力を感じるのは、特撮作品の独特のキャラデザインだという。キカイダーは頭部の機械の部分がむき出しで「一見ヒーローに見えない。そこがいい。敵も格好良いキャラが多く、とにかく特有のセンスが光る」と熱弁した。

 あふれる特撮愛を抑えきれず、自分の店舗にコレクションの一部を展示するまでになった。飲食業は一年の大半を店舗で過ごすため「自分の好きな空間にしたかった」という。周藤さんは「あまり多く置き過ぎるとお客さんに引かれる。これでも少なくしたほう」と特撮愛は止まらない。

 元は映画監督志望、転換期は

 周藤さんが自分の趣味あふれる店舗にしようと思ったのにはきっかけがあった。

 特撮やアニメが好きだった周藤さんの昔の夢は、漫画家か映画監督だった。出雲市出身で、高校生時代は出版社に自作の漫画を送ったこともある。卒業後にはエンターテインメント業界で有名なビジュアルアーツ専門学校(大阪市)の放送・映画学科に進学した。前身の大阪写真専門学校の卒業生で、東京五輪の公式記録映画の総監督を務めた河瀬直美さんから講義を受け、学んだ。

 ただ、万人受けする映像制作は難しく「映画監督で食べていけるのはほんの一握りだ」と痛感し、2年時に挫折を味わった。地元に帰り、和食やイタリアン、居酒屋といった多様な飲食業で20年以上働いた。ラーメン屋の店長をしていた頃、新型コロナウイルスが流行した。

 コロナにより著名人が死亡した報道を見て「人はいつ死ぬか分からない。いつ死んでもいいようにやりたいことをやろう」と一念発起。独立を決め、2021年4月にゴイケヤをオープンした。自分の好きなグッズを店に展示したのも「どうせやるなら好きなものを好きな風にやりたい」との思いからだった。

 ラーメンにもあふれんばかりの愛

 多様な飲食業を経験した周藤さんが「好き」を形にした店なだけあって、ラーメンへのこだわりは強い。

 スープはシジミや焼きアゴといった魚介系と、鶏や豚を使った動物系を合わせたダブルスープと呼ばれる手法を採用した。調理に使う水は島根県の銘水百選の一つ、高清水神社(松江市東出雲町下意東)の天然水を使用し、うま味を凝縮しつつもあっさりした味になるよう工夫した。器は地元の出西窯(出雲市斐川町出西)の熱に強くおしゃれなデザインのものを使う。

 こだわりの「極み塩」(750円)「極みブラック(しょうゆ)」(800円)「えび塩」(900円)のメニューに自家製チャーシューは、学生だけでなく、社会人から家族連れまで幅広い世代に人気だ。9月1日には新たに魚介系のさっぱりとしたスープを使った「あさり塩ラーメン」(850円)「しじみブラック」(900円)の提供を始めた。

 自分の店を持ってからは思いついたことを何でもやっていて、高い頻度での期間限定メニューや朝の時間帯だけ提供する「朝ラー」を実施(現在は終了)。「忙しいが、自分の責任で何でもできるのでストレスはゼロ」と晴れやかに笑った。

 また、かつての自分のように夢を追う人を応援したいとの思いから、脱サラしてラーメン屋を始めたいという人に無償でノウハウを教えるという構想も抱く。ゆくゆくは弟子を増やし、全国にフランチャイズ店を作るのが夢。周藤さんは「店では常に新しい仕かけを考えている。特撮が好きな人もラーメンが好きな人も、気軽に訪れてみてほしい」と呼びかけた。

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 一風変わったラーメン店は、好きなことを好きなだけやると決めた男性がつくり上げた、自由かつこだわりの空間だった。ラーメンゴイケヤの営業時間は火~土曜は午前11時~午後3時、午後6時~同8時。日曜は午前11時~午後3時。定休日は月曜。

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