「ユメノツヅキ」の香りに酔いしれる、米から育てた夢の酒がもうすぐ蔵出し~鉄爺里山へ行く#7

沼田 伸彦 沼田 伸彦

鉄人爺さん、略して鉄爺。43年の会社生活を卒業し、「暇を持て余さない老後」をコンセプトに第二の人生にチャレンジする。里山、自転車、マラソン、旅にグルメに…。

 

 酒造タンクの上に手を差し延べ、空気を掬い取るようにして鼻に運ぶと、紛れもない日本酒の香りが鼻孔を満たした。

 「もう立派なお酒になっている…」

 酒米の刈り取りを始めたのが8月30日。仕込みから数えて2カ月ほどでここまで仕上がるものなのかということにまず驚いた。

 11月18日、訪ねたのは兵庫県丹波篠山市にある「狩場一酒造」の酒蔵だった。「秀月」という通好みのブランドで知られる。丹波篠山で立ち上げられた里山プロジェクト「ミチのムコウ」では、第一弾として今年初めに100人を募って酒米五百万石を育て、収穫した米で日本酒を造るという試みを始めた。4合瓶にして約1200本、軽い発泡風味のこの特別な酒は「ユメノツヅキ」と命名され、現在は狩場一酒造のタンクの中で12月中旬の蔵出しを待つ。

 生まれて初めて足を踏み入れる酒造の現場。靴の底を消毒液に浸し、手には使い捨ての手袋、頭はシャワーキャップのようなもので覆う。狩場一龍社長の案内で初めて目にする酒造用の設備が立ち並ぶ「聖域」に足を踏み入れた。

 「これがユメノツヅキです。いい出来だと思いますよ」。狩場社長が指さす先には高さ2㍍余り、周囲のものと比べると少し小ぶりな緑色のタンクがあった。勧められて階段を昇り、タンクを上からのぞき込む高さの足場に立った。

 収穫された米を最後に見たときは、まだ粒は穂を成し、籾に包まれた状態だった。それがコンマ一度レベルの徹底した温度管理をはじめ、繊細な環境を整え、幾多の複雑な工程を経ていよいよここまで…そう思うとあらためて日本酒づくりの奥の深さにただ感嘆する。

 ユメノツヅキの隣では、とは別の銘柄のお酒が搾り機にかけられ、ポタリポタリと滴を落としていた。それを受ける小さなタンクに溜まった搾りたてを、蛇口をひねってもらいお猪口に一杯いただいた。さてユメノツヅキの味わいは…口の中に夢が広がる。

 プロジェクト第一弾の完結を待たず、「ミチのムコウ」は2030年を目標に据えた第二弾をスタートさせようとしている。

 「Be Satoyama 2030」と名付けられたこの取り組みのコンセプトは、里山の担い手を育てていくこと。来年1年間をかけて全11回の講座を開催、午前中は座学で里山の歴史、現状、獣害対策などの課題を学び、午後は実地体験でトラクター実習、様々な農作業、材木の伐採、加工などを幅広く身に着ける。

 定員は15人、参加費用は19万8千円で、現在ホームページ(https://michinomukou.org/)で参加者を募っている。1次募集は11月30日まで。2次募集は12月1日から15日までの予定だ。問い合わせはメール(michinomukou2022@gmail.com)で。

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