鉄人爺さん、略して鉄爺。43年の会社生活を卒業し、「暇を持て余さない老後」をコンセプトに第二の人生にチャレンジする。里山、自転車、マラソン、旅にグルメに…。
丹波篠山市で展開される里山プロジェクト「ミチのムコウ」の企画のひとつ、酒米の田んぼの畔に植えた黒枝豆収穫の日がやって来た。割りばし1本の太さもない10センチばかりの丈の苗を田んぼの泥をすくいながら植え付けたのが6月18日。わずか4カ月の10月23日、主であった酒米五百万石は穂をつけ、刈り取られ、姿はもうない。主のいない田んぼを取り囲むように80センチほどの丈に育った黒枝豆が隆々と緑の葉を繁らせていた。
その葉を払いのけるようにしながら根元を探し当ててあらためて驚かされる。か細かった茎は、幹と呼びたくなるような太さに育っていた。持参した手ばさみではとても太刀打ちできず、用意された大型の枝切りばさみの出番となった。
実った枝豆のさやをひとつずつはさみを使って切り取っていく。すぐに気がつくのは、さやがはちきれんばかりの実の育ち方。それと緑色に墨のような黒のさしたさやの色合い。それこそが成熟の証しだ。
プロジェクトの吉良佳晃代表によると、黒豆の枝豆としての収穫期は10月上旬から始まり、最初の10日間ほどは甘みの勝った味わい。11月上旬から中旬にかけての締めくくりの
時期になると、その甘みが影を潜めコクが主役になる。今回収穫した10月20日ごろといえば、ちょうどその中間期で両者がほどよく混ざった味わいが特徴だという。
ちなみに枝豆としての収穫をスルーされたものはその後立ち枯れし、12月になるとさやの中からは漆黒の黒豆「丹波黒」が取り出される。
収穫の日、現地では収穫したばかりの枝豆を鍋に入れ、参加者一同で獲れたて、茹でたての黒枝豆を賞味した。その粒のボリューム、しっかりとした歯ごたえ、そして広がる甘み…あちこちから感嘆の声があがるほどだった。
黒枝豆プロジェクトの参加者が植えたのはひとり4本の苗だったが、切り取った枝豆の量は3キロを軽くオーバーするほどの重さがあった。たった4カ月でここまで、と思うと感慨深い。
今年のプロジェクトの主役、8月末に刈り取った酒米五百万石も狩場一酒造の樽の中で真の主役として再登場する日を待つ。9月には参加者を中心にこの酒の名前を募集し、「ユメノツヅキ」と名付けられた。12月20日ごろには蔵出しされ、約1200本の720ml瓶となって人々の舌に乗る。
半量はプロジェクトの参加者に配られるが、残りの半量は狩場一酒造とミチのムコウを通して販売される予定だ。
自ら手植えし、収穫した黒枝豆を肴に生まれたてほやほやのお酒を一杯という夢のようなシーンはお預けとなるが、「ユメノツヅキ」はこれからだ。