創業間もない組織で、たった一人の人事担当が実現した「マッチする人材、1年で100名以上採用」…メタバース事業で急成長するoViceの組織づくり

20代の働き方研究所/Re就活 20代の働き方研究所/Re就活

バーチャル空間「oVice(オヴィス)」。コロナ禍で進んだオンラインでのコミュニケーションの課題であったシームレスなコミュニケーションを、バーチャル空間(メタバース)によって実現しようと取り組むサービスです。2020年8月にローンチして以来、わずか2年で日本を中心に世界2200社以上で採用され、急成長を遂げています。宮代隼弥(みやしろ・しゅんや)さんは、20代にして世界規模で成長する同社のHead of HR(人事責任者)として創業間もなくから採用・オンボーディング・カルチャー浸透・制度設計などの組織づくりを先導しています。これまでの経歴に加え、メンバー一人ひとりが高いパフォーマンスを発揮する組織をいかに築いてきたのか聞きました。

【oVice】
バーチャルオフィスやバーチャルイベント会場として活用されるバーチャル空間サービス。自分のアバターを自在に動かし、相手のアバターに近づけるだけで簡単に会話できる2次元のバーチャル空間です。これまでに2200社以上で採用されており、オフィスやイベントだけでなく、大学のオープンキャンパスや、不登校児童の居場所づくりなど様々な活用事例があります。

友人が困っているときに助けられる実力を身に付けたい

―まずはこれまでのご経歴についてお伺いします。新卒ではビズリーチに入社されたそうですね

新卒ではビズリーチに入社し、2社目はデザイナーやPMなどのサービス設計者のためのデザインナレッジプラットフォームを展開する株式会社almaを友人と起業しました。この会社では主に事業責任者として仕事をしつつ、採用や労務も担当していました。

―新卒でビズリーチに入社したのはどんな理由があってのことでしょうか

HRにこだわっていたわけではなく、「活躍できる会社」「興味を持てる事業領域」という観点で様々な企業を分析して決めました。会社基盤・理念・戦略・事業内容・仕事内容・組織風土・制度・待遇と、分析にあたってはいくつかの要素に分けることができますが、それぞれをスコアリングしていきました。

そして、自分が活躍できるか、やりたいことが実現できるかということが重要だったので、事業内容・仕事内容・組織風土の順にウェイトを置き、そこから選考を通過した企業の中で最もスコアの高かったのがビズリーチだったのです。

―すると、宮代さんの価値観や考え方に合致した会社だったから入社したということですね

そうですね。自己分析や企業研究を経て選んだ会社ですので、入社時点でHR領域の仕事をやってみたいと思っていました。ただ、そこで「人事職」を選ぼうとしたわけではありません。人事一本でキャリアを積んでしまうと、経験できることが限られてしまうため、できるだけ様々な挑戦を通じてビジネスパーソンとしての土台を形成できるかどうかを大切にしました。

―その後の起業もビジネスパーソンとしての力を身に付けることを目的にしていたということなのでしょうか

はい、そうした狙いもありましたし、環境に違和感を覚えたことがきっかけとなりました。その背景には2つの仮説があり、一つは自分自身にオーナーシップ(主体的な姿勢)を持ちきれないという性質があることに気付いたこと、そしてもう一つは「何とかしてやり遂げないといけない」という環境に追い込まれないと動けない人間だと気づいたことです。

―オーナーシップを持ちきれないというのはどういうことでしょうか

入社当時のビズリーチは上場間近で、コンプライアンスをより重視するようになり、長時間労働にならないよう、きちんと整備されるようになっていました。もちろん、会社としては正しい姿勢ではあるのですが、がむしゃらに働いて自分をもっと成長させたいと考えていたので、思い描いていた「なりたい像」からかけ離れてしまうのではないかという危機感を抱いたのです。

そこに加えて、後者の追い込まれるような環境にいないと動かない自分がいることに気づいたので、強制的に自分を奮い立たせるような環境に身を置こうと考えました。そのため、生存戦略の一つとして起業という選択をとったという感覚です。

―思い描いていた「なりたい像」とはどんなものだったのでしょう

大きく2つあります。一つは友人が困っているタイミングで助けられるような実力を身に付けたいというものです。この先、30代、40代になったとしても、仲の良い友人とまた一緒に仕事がしたいというモチベーションから生まれていると思います。

もう一つは他者のパフォーマンスを上げられる人というものです。組織全体の成果を最大化する上で、間接的にどんな役割を担えるのかということに興味関心がありましたし、その役回りを得意としている認識も持っていました。

創業間もないoViceの組織拡大を一人人事として担う

―oViceへの入社は声をかけられたことがきっかけだったそうですね

oViceの創業メンバーの一人で、現在は日本事業の統括をしている重神が以前から友人でして、声をかけられました。4カ月くらいずっと誘われていたのですが、「ノー」と言い続けていましたね(笑)。

ただ、そこまで熱心に誘ってくれるので根負けしてしまい、まずは業務委託でoViceに参加しました。そこから仕事が楽しくなり、気づいたら正式にメンバーになっていたという経緯です。

―入社の決断を後押ししたものは何だったのでしょうか

これから急速に成長していくことが見込めたことです。前職で市場選定が大事だということに気づいたためです。市場規模が一定の大きさである、もしくはこれから成長が見込まれる市場であるところでビジネスをやらなければ、せっかく事業を興しても伸びていくことはありません。

前職のデザイン領域の事業はこれから伸びていく市場にはあるものの、UI・UXの重要性が他国と比べてまだまだ浸透しきっていない日本において、自分の人生を賭けて、少なくとも10年をデザイン領域にベットすることはできないと判断しました。

―成長が見込まれるからとはいえ、創業間もなくの組織でたった一人の人事担当者です。組織づくりのためにまずは何に取り組まれたのでしょうか

まず大きく2つの戦略を立てました。一つはミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を策定したということ、もう一つはリクルーティングが重要な組織拡大フェーズであったので自社にマッチする人材をどのように定義し、探し、スクリーニングをかけていくのか言語化するということでした。自分たちの事業を伸ばすにはどんな人が必要なのかを明確にしたとも言い換えることができますね。

―組織拡大の段階で採用人数も担保しつつ、全員がマッチするような人材であるようにするのは非常に難しかったのはないでしょうか

確かに難しい取り組みでした。急成長している会社の中には自社とマッチしていない人でも大量に採用してしまって組織崩壊を起こしているケースもありますので、それを防ぐことを第一としました。そのため、採用基準を非常にクリアにし、誰が選考を担当してもきちんと判断できるようにすることとしました。

一例を挙げると、フルリモートで働ける当社ではオンラインでもスムーズなコミュニケーションをとれることを重視していたので、「コミュニケーションレベル」という項目を設け、段階別に評価基準を明確にしました。そこでレベル2以下であれば不採用とするなど、合否判断もシンプルなものとしています。コミュニケーションレベルの他にも、「カルチャーフィット」などの項目もあり、ここでは応募者の方の価値観や姿勢から親和性を見て判断していました。

―選考プロセスについても工夫をされたのでしょうか

当初より、最終面接合格後に業務委託・契約社員として数日~1カ月間のトライアル期間を設けました。面接だけでフィットする人材か判断できないという前提の下、一緒に働いてみることで本当にマッチする人材か探ろうと考えてのことです。

また、応募者の方の目線としても実際に働いてみないことにはどんな会社なのかわからず、面接・面談で話していたことが本当なのかということが判断できないと考えています。双方にとってよりよい採用を実現する上でもトライアル期間を設けました。

―1年という短期間でマッチする人材を100名以上採用されるにあたり、どのように広報されたのでしょうか

ありとあらゆる手段で広報しました(笑)。詳細はお伝えできませんが、使えるお金が少なければTwitterなどのSNSでDMを送るなど、それなりにできることはたくさんあるものです。

ただし、たしかに多くの方にご応募いただくように努力はしたものの、私たちがKPIにおいているのは「採用数」ではありません。「トライアル期間を経て定着した数」においています。そもそもの目的は、採用を通じて事業や組織の課題を解消できるかにあるので、それが実現できれば良い採用だったと判断しているのです。安易に数に逃げず、まさにありとあらゆる手段で自社にフィットする方を探しました。

―組織拡大フェーズにおいて、その他に取り組まれたことはありますか

他にはオンボーディングを自動化させるという取り組みもしていました。Slackのワークフロービルダーを使って新規入社した方がそこの情報に基づいてラーニングできるような仕組みです。人事が一人しかいないのでオンボーディングまで担当できなかったため、そのような仕組みを作りました。

また、1on1ミーティングも実施しました。実は当社では入社された方を対象に1カ月に7回の1on1を実施しています。HR側との1on1もありますが、受け入れ部署のマネージャーとも実施しています。

―そんなに高い頻度で行われているのは驚きです

私たちの市場の構造上、いかに早くoViceというサービスを世の中に広めるのかが重要です。コロナ禍という外部要因があって急成長した会社ですので、全ての施策をコロナの影響のある間に実行した方がROI(Return On Investment=投資利益率)が高いからです。

そこで採用においてもいかに早く戦力となるかがポイントになります。1on1を通じて会社・仕事理解のスピードを高めているのです。なお、採用においては戦力化の可能性はもちろん、当社のミッションに共感できるか、そして、変化の激しい市況の中で自らも変化し続けられるかどうかも非常に重要です。全ては、自社のビジネス特性に合った採用を実現することで事業成長を実現するためです。

例えば、私たちの会社は現在フルリモートで働いていますが、「フルリモートで働ける環境だけを求める人」を採用するのは合わないと思っています。

―どういうことでしょうか

「人々の生活から物理的制約をなくす」というミッションを掲げていますが、すべてフルリモートにすれば良いというわけではありません。働いている方が自分の意思でオフィスに出社するのか、オンラインで働くのかを選択できる環境を作っていこうという「ハイブリッドワーク」が私たちの方針です。よって、フルリモートで働ける環境を作ることだけに興味を持っている方はミッションに合致しません。

そして変化の激しい市場とは、過去に、緊急事態宣言が発令された直後にお問合せ件数が1.5倍に跳ね上がるなど、外部要因によって大きな変動が生じるということです。

このように、早く戦力化すること、ミッションに共感すること、そして変動の大きな市場に柔軟に対応できること、この3つを兼ね備えた人を採用することがoViceの組織拡大期においては重要でした。

―そうした人材となると引く手数多だと思います。自社の魅力づけや、好きになってもらう取り組みも必要ですね

その通りです。そこで私たちは選考前に1時間ほどかけてカジュアル面談を実施しています。また、採用のために会社の魅力を知ってもらいつつ、応募者の方々は我々のサービスのユーザーになる可能性もあるため候補者の方にはoViceのファンになっていただきたいと考えています。

メンバーのパフォーマンスを最大化。HRチームとしてのMVV

―そして一定程度規模が拡大した中で、今後の目標を「新しい世界標準の働き方を作る」とされています

HRチームのミッションに「Creating a new “20XX” global working style and stabilize(20XX年の新しい世界標準の働き方を作る)」を掲げています。このミッションを掲げている以上、私たちが実現できなければなりませんし、そうでなければ私たちが提唱する働き方に説得力もありませんよね。

その上でoViceというオンラインで提供しているサービスを駆使した働き方に留まらず、今後はオフライン環境でもよりよい働き方を実現する施策を考えることで、オンラインとオフラインの境目がよりなくなっていくと考えます。そうした環境でも働きやすく、より生産性が上がっていくというようなモデルケースを築いていきたいです。

もっと具体的に言うと、3~5年後にはハイブリッドワークが主流になっていくと考えています。現在はリモートワークができないから出社としている会社もあると思いますが、そうではなく、どんな会社でも生産性を落とさず、従業員同士の信頼関係を損なわず、そして一人ひとりのライフスタイルに合った働き方を実現できる環境にしたいです。

―チームとしてのミッション・ビジョン・バリューも作られているのはなぜでしょうか

oViceの全てのチームがミッション・ビジョン・バリューを掲げているわけではなく、あくまでHRチームが独自に掲げているものです。背景には、当時、HRチームの生産性があまり高くないという問題意識があってのことでした。一人ひとりが主体的に判断し行動できているわけではなく、マネージャーの判断を逐一仰ぎながら行動するという働き方になっていたのです。つまり、私が「こうした方が良いんじゃないの?」という判断を毎回下していたのですが、さすがに限界がありますし、チームメンバーが自ら行動を起こす機会も損失していました。自らの手で最善の選択肢を見つけ、それを選び続けられるようなチームにしたかったのです。

―会社としてのミッション・ビジョン・バリューがあっても必要だと判断されたのですね

そうですね。会社のバリューが大枠の行動規範となっていますが、それを体現しているメンバーが集まっているというのに、なぜ、それほど生産性が上がらないのか、アウトプットを続けられないのか、という問いがあって策定しました。

―策定してもチームメンバーがそれに基づいた行動をするように、マネージャーもチームメンバーもそれぞれ意識を変えていく必要があったのではないでしょうか

そもそもチームのMVV策定に際してはチームのメンバー全員が参加し、アイディアを出す段階から入念に事前準備をする、というコミュニケーションを取っていました。策定プロセスから意識が変わるように取り組んでいたのです。

チームのバリューには4つの項目がありますが、その中の「Output-based conversation(アウトプットベースでコミュニケーションする)」はすっかり浸透しています。どんなミーティングにも一人ひとりがたたき台となるアイディアを出していこうというもので、例えば今、採用サイトのリニューアルを進めていますが全員が案を出してくれています。そうした方が早く進むことを理解し、習慣となっていっているのです。

―より建設的な議論がスピーディーにできるようになったということですね

その通りです。さらに付け加えるなら、みんなの意見を取り入れてチームとして良いアウトプットをしようという意識はありません。なぜなら一人ひとりが熱を入れたアイディアを持ち寄って議論していますから、最終的なアウトプットに対して共感することができます。マネジメント側としては一人ひとりの意見を聞いて回るのではなく、一人ひとりに質の高いアイディアやたたき台を持ってきてもらうことが重要だと考えるようになりました。

―アジア・EU・アメリカなどグローバルに事業を展開されていますが、HRチームのこうした指針は海外の拠点においても共有されているのでしょうか

HRの指針はグローバルで共有しています。今は韓国やチュニジアにHRメンバーがいますが、彼らもMVVの策定プロセスから関わってくれています。

現状を批判するだけではなく、自分ときちんと向き合って決断する

―ここまで様々なお話をしていただきありがとうございます。ミッション・ビジョン・バリューを策定し社員一人ひとりが主体的に働くことに取り組まれていますが、読者である20代の方が同じように自律して働くために大切なことは何だと思いますか

現在働かれている方の中には所属している会社と自分の考えの一致点が見いだせない方もいるかもしれません。一致点を見出すために色々な努力をしたとしても、うまくいかないこともあると思います。まずは悔いの残らないように一生懸命トライしてみることが大切ですが、それでもなお現状が変わらないときに初めて転職や副業といった新しい選択肢に進んでみるのが良いと思います。

もう一つ大事なことは、批評家にならないということです。批評家になって会社や組織についてあれこれ批評したとしても、本人にとっても会社にとっても何も良いことはありません。変えたいと思うことがあるなら自らが当事者になって行動しないといけないということです。

それから、一人ではなかなか変えられないという人もいると思います。でも、あなたが違和感を覚えていることは他の人も同じように感じている可能性が高いです。そこで仲間を集めて少しずつでも現状を変えていく行動をとってみると良いと思います。

―これまでは会社に勤めたら「3年は働く」というのが一般的だったように思いますが、現状を変える努力をしたという前提で、それでもなお環境が変わらないときには早い段階で判断をした方が良いのでしょうか

何かモヤモヤすることや不満があるときに、「なぜ自分は不満を抱えているのだろうか」と自身に問いかけることが大事だと思います。その不満が一時的なもので、解決できるものなら問題ありません。ですが、解決が難しい課題だとわかった時、個人的にはその判断は早くても良いのではないかと考えています。

ただし、次の転職先を探すときに大事になるのは、自分の幸福に大きく影響する条件できちんと見極めるということです。例えば家庭の都合でどうしても残業ができない人がいたとして、制度として時短勤務制度や残業がないという事実も大事ではあるのですが、もっと大切なことはそうした働き方を許容する文化や考えが組織に根付いているかということです。

在籍期間に左右される必要はありませんが、今の環境から違う環境へと転職をすると決めた以上、自分が納得できる働き方を実現できるように、何が嫌なのか、どうすれば幸福になれるのかということにきちんと向き合って決断することが大切になるのではないでしょうか。

【oVice株式会社】
2020年2月設立。「人々の生活から物理的制約をなくす」をミッションに掲げ、従来のオンラインでのコミュニケーションを超えてまるでとなりで話をしているようなバーチャル空間を実現している。2020年8月のサービス開始以降、世界各国の2200社以上で同社のサービスが導入され、2022年8月にはシリーズBラウンドで45億円の資金調達に成功。コクヨ株式会社との業務提携も実現し、テレワークとオフィス出社が混在する「ハイブリッドワーク」でのシームレスなコミュニケーションを実現し生産性を向上させる環境構築を加速。2022年9月には元IBMグローバル人事責任者などを務めたMegan Reed氏がCHRO(最高人事責任者)に就任するなど、海外事業の拡大にも注力している。

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