道路に倒れていた猫
わんにゃんレスキューはぴねすの中村さんにとって、その日はいつも通りの朝だった。
しかし、昼休みを過ぎた頃、職場の近くに猫が倒れているという知らせが入る。「交通事故かもしれない…」そう思いつつも気になって現場へ駆けつけた。するとそこには、痩せ細り、衰弱した小さな猫が静かに横たわっていた。
中村さんはすぐにボランティア仲間の里美さんに連絡を取り、救助を依頼。彼女は快く引き受け、この小さな命のために水を飲ませながら、中村さんが仕事を終えるのを待ってくれた。
夕方5時、終わらない仕事を放り出し、猫を抱えて急いで病院へ向かった。土曜日の夜間に開いている病院は少なく、職場から1時間以上かかる場所にある病院へ駆け込むことになった。
病院のスタッフがちゅ~るを差し出すと、衰弱していた小さな命がかすかに反応し、ぺろぺろと舐め始める。その瞬間、つぶれていた目が少しだけ開いた。
診察の結果、この猫は栄養失調と脱水症状があり、皮下点滴を受けた。皮膚には疥癬も見つかり、抗生剤や寄生虫の薬も投与された。猫エイズ陽性が確認されたが、白血病はまだ発症していない様子。医師からは「しっかりと栄養をつけて、安静にさせてあげて」との指示が出されたという。
サクラが引き合わせてくれたご縁だから、名前は「サク」
中村さんはこの猫を迎え入れてくれる人を探し、思い当たったのは、少し前に別の保護猫「サクラちゃん」を看取ったばかりの水本さんだった。
サクラちゃんの別れを受け入れた彼女は、「きっとサクラが引き合わせてくれたご縁だよ」と微笑み、この新たな命も自宅で受け入れる決意をしてくれた。
水本さんのもとに迎えられた小さな命は、「サク」と名付けられた。
水本さんの家に到着後、サクは水も飲み、パウチも少し食べることができたという。その報告に、ようやく安心して眠れた中村さん。しかし翌朝、サクは激しい痙攣を起こし、水本さんの腕の中で静かに息を引き取った。わずか数時間の短い安らぎの時間だったが、サクはきっと最後に温かさを感じることができたのだろう。
この保護活動に関わった全ての人々の優しさに感謝したい。里美さんの迅速な対応、病院のスタッフの温かい治療、そして迎え入れてくれた水本さんの愛情が一つになり、サクにとって短くとも安らぎのある最後の時間を作り上げた。道路で命を落とすことなく、優しさに包まれた最期を迎えられたことが唯一の救いとなった。
中村さんは言う。「この命が紡いだのは、救いの輪と優しさの記憶。サクに手を差し伸べた全ての方々に、心からの感謝を捧げます」