3回無断キャンセルで予約お断りの歯科→逆ギレ続出も「意外な対応」で医師の心に変化が「理由さえわかれば」

宮前 晶子 宮前 晶子

「当院では、2回無断キャンセルをした時点で『次に無断キャンセルをしたら今後予約はお取りしません』と伝えている。それでも、無キャンをして予約を断った人は、だいたい逆ギレして去っていくパターンが多かった。

しかし、今回の人は違った。電話口で本当に申し訳なさそうに誤り、『前回ちゃんと先生からそう言われていたのに、私が悪いです。すいませんでした』と謝罪して去っていった。

一旦は予約を断ったものの、心の片隅で、それが小さな棘のようにチクチクと僕の胸を刺した。数日してから、やはりその人に電話をすることにした。何か理由があるかもしれないと思ったからだ」

予約診療が多い歯科医院。ただ予約しても来院しない人も多いため、2回無断キャンセルすると警告、3回無断キャンセルすると以後の予約を取ることができない。苦渋の策をとっているのは歯科医のサトシィさん(@pomade_konpeito)。ある患者にその旨を伝えたときの反応についてのエピソードが話題になっています。

ある患者さんの2度目の無断キャンセルに対して、「いつもまじめに来院する人がどうして?」と胸のザワツキが止まらなかったサトシィさんは、件の患者さんに電話します。そこでわかったのは慢性的に人手が不足する介護業界で働いており、急な仕事のため、連絡ができなかったということ。

これまで、予約の時間通りに来院して治療を受けていたことからサトシィさんが再度の予約を提案したことに、「臨機応変な対応も大事」「優しい気持ちはみんな救われる」と肯定的な声が集まりました。その一方で「特別扱い、あかんやん」「自分で決めたルールなのに、ブレすぎ」という声も。物議を醸した一連の投稿で感じたことや歯科診療について、サトシィさんに話を聞きました。

働き方を改革するために、予約制に変わった歯科業界

――無断キャンセルの患者さん、来院したんですね。 

「予約の2日前に確認のお電話をいただいて、当日は15分前に来院。治療後に少しお話もして、介護中は携帯電話の持ち込み禁止であること、代理出勤を頼まれると断れないことや日勤夜勤が続くと疲労が極限に達することなど現場の過酷な状況を聞きました。

普段の治療では、そこまで深く患者さんとコミュニケーションを取ることもないのですが、今回事情を伺って、自分はまだまだ世間を知らずに生きているなと思わされましたね。ツイートにもいろいろな声をいただいて、患者さんも無断キャンセルしたくてしているんじゃないな、と実感しました」

――無断キャンセルは多いのですか?

「当院のキャンセル率はごくわずか。予約2日前にショートメールで予約確認を送るなど、患者さんが来院を忘れないよう対策もとっています」

――歯科クリニックは予約制が多いという印象。患者としては診て欲しい時に診てもらえないもどかしさも。

「歯科は、一人ひとりの患者さんに小さな外科手術を施しているようなものなんです。治療法を考えるなど事前準備が必要なため、予約制にしているというわけです。当院では、患者さんひとりにつき30分の診療時間とし、大掛かりな治療が予想される場合は2時間ほど確保することもありますね」

――患者さんは30分、歯の診療を受けたと思っても、医師や歯科衛生士さんはそれ以上の時間を費やしているということなんですね!

「はい。歯科が予約制になったのはここ30年ほど。それ以前は、患者さん全員の診療完了まで開院していました。受付終了間際に大勢の患者さんがやってきた結果、深夜まで診療というのもざらにありました。でも、そんな働き方では現場が疲弊するだけだということで、予約制に替わっていったんですよ」

――歯科の働き方改革は既に行われていた、ということですね。

「日本の社会・会社は “歯医者ごときで休めない”という考えが多いのでは?と感じます。欧米では30万円ぐらいかかる治療が、日本では実費1500円ほどだから、というのも一因で、絶対に歯を悪くさせたくないという切迫感が薄いのだろうと思います。

でも、虫歯を放置しておくと治療に時間もかかります。歯の病気予防にもなりますし、虫歯があっても早期治療で対応できるのでこまめなメンテナンスをして欲しい」

◇ ◇

今回の無断キャンセルから見えてきた働き方・暮らし方にも思いは及び、「批判覚悟で書くが、先日反響のあった私のツイートのリプの中に『仕事が終わってからいける歯医者さんが少ないので、もっと遅くまで見てくれる医師が増えて欲しい』という意見があった。気持ちはすごくわかるが、それより治療で気兼ねなく仕事が休める会社や企業が増える社会になれば良いなと思う」との投稿には、「完全に同意。仕事は自分の健康を守った上でやる事」と「歯の治療は一回で終わるわけではないのでその度に休むと言うのは現実的ではない」と、賛否両論の意見が飛び交い、さらに大きな反響になりました。

そうやって、多くの人がいろいろなことを考えさまざまな意見が出て、それが社会を変える小さな一歩、きっかけになれば、とサトシィさん。もちろん、無断キャンセルは望ましくありません。今後も無断キャンセルをする人の予約は断るというスタンスは変わりませんが、どうしてもそうなってしまう人や状況に目を向ける気持ちは持つ歯科医でありたいと今回の件を通じて意識が変わったとのことです。

■サトシィ@pomade_konpeito https://twitter.com/pomade_konpeito

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