義嘴(ぎし)を装着することで自力で食事できるようになったオジロワシの動画がSNS上で大きな注目を集めている。
「交通事故で上の嘴(くちばし)を骨ごと失ったオジロワシ。獣医師、歯科医師、歯科技工士による異業種チームを作り、2年以上かけて義嘴の作成に取り組んできた。これまでは差し出した餌を義嘴で受け取って食べていたが、今日初めて皿上の餌を自力で食べ始めた!嘴の使い方を思い出したのか凄い食欲だ!」と件の動画を紹介したのは北海道釧路市にある猛禽類医学研究所代表で獣医師の齊藤慶輔さん(@raptor_biomed)。
交通事故で上の嘴を失い、自分ではエサを食べることが出来なくなっていたオジロワシに、なんとか元気を取り戻してほしいと長い時間をかけて義嘴を開発した齊藤さん。その情熱に、SNSユーザー達からは
「約3年前、このオジロワシの収容時に発信された情報をよく覚えています。その時はあまりにも可哀想で、死んでしまうのか、これからどうなるのか、胸が痛くなりましたが、皆さんの努力と献身の積み重ねでこの動画を見られることを嬉しく思います。」
「こんなふうに助けてあげることができるなんて!!凄い技術。どれ程の試行錯誤をされてこられたのか、想像もつきません… 凄い オジロワシも先生方の努力に応えるかのような良い食べっぷり!! オジロワシも凄い 嬉しいですね!!」
「これは...とっても嬉しいですね 先生方が試行錯誤されて作り上げた義嘴で自力でご飯を食べてくれた
食べる様子に活力がみなぎっていますね」
など数々の称賛と感動の声が寄せられている。
齊藤さんにお話を聞いた。
ーー交通事故に遭った当時のオジロワシの状態についてお聞かせください。
齊藤:交通事故に遭い、上嘴を根元から骨ごと失い、左目も失明しています。翼にも外傷が認められました。
ーー義嘴を製作された経緯、完成までのご苦労についてお聞かせください。
齊藤:終生飼育個体のQOL向上のため、羽繕いや自力採餌ができる、機能的な義嘴の作成を試みました。嘴の形状は他のオジロワシのものを参考にして、レジンですぐに作ることができましたが、どのように装着するのかが難題でした。嘴が途中から折れているのであれば、インプラントなどで固定することができますが、根元の肉しか残ってない状態であることに加え、噛むと上方向に力が加わってしまうため、すぐに取れてしまうと考えられました。また通常のレジンだと重すぎて装着部に負荷が掛かってしまうため、可能な限り軽くて丈夫なものの開発が必要でした。
義嘴本体の開発は地元の歯科医師と歯科技工士と協力し合いながら開発を進め、最終的には14gと極めて軽い義嘴を開発することに成功しました。鼻孔も開いていて息をすることもできます。装着方法については矯正用の器具に関する知見をお持ちの横浜在住の小児歯科矯正医に相談しました。
ーー義嘴はどのような方法で装着されているのでしょうか?
齊藤:矯正歯科で使うヘッドギアにヒントを得て、頭の後ろに固定用の軟らかいバンドで停めてあります。
ーーオジロワシが自力で餌を食べる光景をご覧になった感慨をお聞かせください。
齊藤:まず、装着した義嘴を使って羽繕いしたり、差し出したものを咥えて食べられたときは感動しました。そして様々なリハビリを経て、オジロワシが自力で食べてくれるようになり、オジロワシが私達が作った義嘴をようやく評価してくれたように思え感無量でした。
ーーこれまでの反響へのご感想をお聞かせください。
齊藤:目の前の命と真剣に向き合い、ベストでなくとも常にベターを、諦めないで目指したことが間違いではなかったと思いました。また、自分たちだけでは対応できない事象とぶつかっても、信頼できる異業種とのコラボレーションは、技術や知識の相乗効果により、素晴らしい成果に繋がることを確信しました。そしてなによりも、様々な義嘴の試験装着に耐え、新しい治療技術を生み出してくれた、野生に帰れないオジロワシに感謝しています。私のSNSの発信を、非常に多くの方々にご覧戴き、評価や応援を戴きましたことがとても嬉しく、これをきっかけに希少野生猛禽類の現状や私達の取り組みについて関心を持って戴けると大変ありがたいです。
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齊藤さんおよび猛禽類医学研究所は傷付いた希少猛禽類を救護し、後遺症により野生に帰れない猛禽を活躍させながら、より良い共生をめざすために11月下旬からクラウドファウンディングに挑戦する。詳細は今後、Twitterや公式ホームページで紹介されるので、ご興味ある方はぜひチェックしていただきたい。
齊藤慶輔さん関連情報
Twitterアカウント:https://twitter.com/raptor_biomed
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCEGIZnHlbFeek5PzurbXpAQ
猛禽類医学研究所公式ホームページ:http://www.irbj.net/index.html