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京都市のど真ん中に「キノコの宝庫」 半世紀の活動で400種以上を発見 都会のオアシスは「菌類の世界」

京都新聞社 京都新聞社

 キノコは人里離れた山奥に生えるイメージがあるが、京都市内の真ん中にも「キノコの宝庫」がある。その場所は京都御苑-。市民グループ「京都御苑きのこ会」は、自生するキノコをみんなで観察する催しを続け、活動50年を迎えた。実は多くの品種のキノコが御苑に生息する背景には、京都御所の存在も絡む理由があった。

御苑ならではの理由で多様化?

 22日にあった時代祭。行列の出発点である御苑の砂利道から一歩踏み入ると、菌類の世界が広がっている。

 つるつる、イボイボ、ぬめぬめ…。多様なキノコが林の中で顔をのぞかせる。同会は毎月1回、参加無料の観察会を開く。6月の会では70人が参加。2時間かけて探し、24種のキノコを見つけた。

 小学5年赤坂桜音(おと)さんは「キノコが好き。観察を続けたい」。英国出身のジョン・アッシュバーンさん(63)は参加歴12年だが、「まだ初心者。キノコは底なし沼です」。

 同会は、在野の「キノコ博士」だった故・吉見昭一さんが1976年に子ども向けに開いたのが始まり。輪は大人にも広がった。

 吉見さんは毎月の会で見つけた菌類をリスト化した。2021年までに発見されたキノコは423種に上る。

 なぜ京都の真ん中で多様なキノコが見られるか。京都大で菌類学を研究する田中千尋教授(62)によると、明治天皇が東京に移った1869(明治2)年以降の保存事業で全国から届いた苗木が植樹されたことで「樹種が増え、キノコも多様化した」と推測する。

 御苑は環境省が管理する国民公園で樹木や土壌が適切に手入れされており、「菌類の生育もいい」という。

 現在、同会世話役を務める佐野修治さん(74)によると「観光客らに付着した胞子が御苑に持ち込まれる」ことも種が増える一因という。「都会のオアシスに偶然舞い降りた胞子は、適した気温や湿度、樹種に恵まれ、命をつなぐ」

 毎月同じ場所を観察して得られたキノコの記録は学術的にも貴重とされる。吉見さんから伝わる教えがある。<キノコを通して樹(き)を見る。樹を通して苑内の環境変化に気付く>

 今では見られなくなった種もある。菌類の増減を通して気候や苑内の環境変化に思いをはせる。佐野さんは説く。「キノコが落ち葉や枝を食べて健康な土にかえし、また植物が生える」。そんな生命循環に触れてほしいと願う。

 会の運営は全てボランティア。名実ともに「胞子活動」は続く。

キノコ博士の「菌糸」次世代へ

 キノコ同様、「京都御苑きのこ会」の世代交代も進む。初代世話役の吉見昭一さんの跡を20年守った佐野修治さん(74)と梶山直樹さん(77)は来春、世話役を勇退する。キノコ博士のバトンは3世代目に引き継がれる。

 佐野さんは、30代の頃に会に出会い、菌類の深遠さに魅了された。「一つの切り株を長年観察すると、生命の輪廻(りんね)を体感できる」

 学校ではキノコの知識を正しく教えられる教師は少ないという。「先生も教えてもらっていないから」。それが菌類学を市井で伝える原動力となった。

 吉見さんが亡くなった2003年、佐野さんと梶山さんは会を再出発させるか悩んだ。「だから自分たちが元気なうちに、みんなの前で引き継ぎをしたい」と勇退を決めた。

 新たな世話役は小田貴志さん(53)=左京区と、北出雄生さん(34)=上京区。2人とも会の参加者として、キノコの面白さを教わった。

 2人は「子どもたちがキノコと触れ合える場を残したい」「50年の重みを受け止めながら楽しくできたら」。

 キノコ博士の“菌糸”は次代へ伸びる。

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