「餃子の王将」社長射殺 事件発生から9年…逮捕の決め手となった容疑者の「盲点」とは? 元刑事が解説

小川 泰平 小川 泰平

 「餃子の王将」 を展開する王将フードサービスの社長だった大東隆行さん=当時(72)=が2013年12月に射殺された事件で、京都府警は28日、殺人と銃刀法違反の疑いで特定危険指定暴力団工藤会(北九州市)系組幹部の田中幸雄容疑者(56)を逮捕した。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は当サイトの取材に対し、「犯行の緻密な計画性」によって捜査が難航する中、逮捕の決め手となった容疑者側の「盲点」について解説した。

 全国チェーンの企業トップが標的にされた事件は発生から9年にしてようやく実行犯とみられる容疑者が逮捕された。なぜ、それほどまでに時間を要したのか。

 小川氏は「これまでも警察が動いていて、今回逮捕された田中容疑者も、その名前は随分前からあがっていた。工藤会の2次団体の幹部で、事件当時47歳。その事件から5年前の2008年には大手ゼネコン『大林組』の社員が乗った車を銃撃した事件を起こしていて、拳銃を扱うことに慣れている人間として名前が浮上していました。そして、18年にゼネコン社員襲撃の殺人未遂容疑などで逮捕、起訴されて懲役10年(求刑12年)の実刑判決が確定して現在は福岡刑務所に服役中ですが、前回も事件から逮捕まで10年かかっていて、今回も9年です。だから、非常に計画性を持って緻密にやっていると思われる。しかも、逮捕されても何もしゃべらない。今回も逮捕されても黙秘でいくと思います。そういう中、警察が黙秘を前提にしても起訴できるというものをつかんでいて逮捕したのか、それとも、10年目に入る前に勝負しなくてはということで逮捕したのか。おそらく、前者で、検察と協議し容疑者が何もしゃべらなくても起訴できるという証拠を持って逮捕に踏み切ったのだと思います」と推測した。

 大東さんが射殺された事件は2013年12月19日午前5時45分ごろ発生。大東さんは本社前の駐車場で腹や胸を拳銃で4発撃たれて死亡した。出社後、日課としていた早朝の掃除中に撃たれたとみられている。

 今回、逮捕の決め手とみられているのが、15年6月に現場付近で見つかったタバコの吸い殻に付着したDNA型で、田中容疑者のものと一致した。同容疑者がふだん吸っていたタバコと同じ銘柄だった。

 小川氏は「吸い殻は駐車場の一番右端にあった。私も現場には何度も行って取材しましたが、ちょうどそこは犯人が隠れやすい場所なんです。ただ、吸い殻があったことは間違いないとはいえ、例えば、焦点をごまかすために第三者の吸い殻を誰かが持ってきて置いた可能性も、背景にある組織がやる手口として考えられる。仮に、容疑者本人がここで吸ったと証明できたとしても、誰かが誰かを殺害しているところをはっきり見届けた人間がいないとなれば、逮捕にまで踏み切れなかった。9年かかった実情だと思います」と説明した。

 それでも、急展開での逮捕劇の決め手となったのは「濡れた路面」だった。吸い殻を第三者が別の場所から持ち込んだ可能性を排除するため、京都府警ではタバコの燃焼状況について専門家に鑑定を依頼。その結果、湿った路上で消されたもので、その場所は現場の通路と推定できると判断された。事件当時、路面は雨で濡れていたことから、直前に、田中容疑者が現場で吸っていた証拠になるとみられている。

 また、もう一つの証拠が「犯行に使ったオートバイからの硝煙反応」。現場から約2キロ離れた住宅の敷地内に捨てられていた盗難バイクのハンドルから銃を発射した際に残る硝煙反応が確認された。近くでは別の盗難スクーターが見つかり、盗難現場の防犯カメラに田中容疑の知人が所有していた軽乗用車が映っていた。

 小川氏は「2台のオートバイは事件から2カ月前の10月の同日に盗難被害に遭っています。オートバイが遺留品として発見されたのは翌年の4月で、同じ敷地の集合住宅に放置されていた。4カ月間も見つからなかったということは、犯行後、車庫のような場所に隠していたからで、警察が懸命に捜査してもオートバイは見つからなかった。2キロ離れたくらいの距離なら絶対に見つかっているはずです。いったん隠して、『もうそろそろいいだろう』ということで、翌年4月にオートバイを放置したと考えられる。そのことからも非常に計画性があり、緻密に準備していると感じます」と解説しつつ、「しかし、犯行後は誰も乗っていないから硝煙反応が残っていたんです」と唯一の〝盲点〟を指摘した。

 小川氏は「事件発生時、私は『ヒットマンが現場でタバコを吸うなど、素人みたいなことをするはずがない。そこにいない人間の吸い殻を別の場所から持ってきて捨てた可能性も考えられる』とコメントしました。九州から京都まですべて車で移動し、防犯カメラを用心して新幹線や飛行機は使わないなど容疑者の緻密な計画性、慎重さがあったからです。ただ、今回、吸い殻については科学が証明し、放置オートバイも通報があるたびに、京都府警が緻密な鑑識活動と現場保存等をやってきた。そうした捜査が実ったと言える」と評価した。

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