ウサギの島にウサギがいないらしい―。そんな話を聞き、瀬戸内海に浮かぶ無人島・大久野島(広島県竹原市)を訪れた。ピーク時には900匹を超え、島に着くなり大量のウサギが迎えてくれたというが、今ではまばらに。新型コロナで観光客が激減し、えさの量が減ったのが原因というが…。数年間でそこまで減るものなのだろうか。ウサギさん、どこ行った?
大久野島は周囲4.3キロの島で、広島県竹原市の忠海港からフェリーで15分。瀬戸内海の島々を巡る観光型高速クルーザー「SEA SPICA(シースピカ)」でも訪れられる。
島に到着して桟橋を渡る。ウサギは見当たらない。少し歩くと、ようやくエサを食べる2匹を見つけた。ぴょこぴょこと歩く姿が愛らしい。コロナ禍前に訪れた女性は「昔は島に着くとたくさんのウサギが駆け寄ってきた。今はウサギより観光客の方が多いですね」と苦笑いだ。しかし、よく見ると草むらにひそんでいたり、道路脇や日陰でねそべっていたり、えさを求めて寄ってきたり。近づいても逃げずに無防備な姿を見せてくれるのは健在だ。
大久野島のウサギは1970年代、小学校で飼育されていた数匹が放たれ、野生化して繁殖したとされる。観光スポットとして注目されてからは、観光客がSNSで「ウサギの島」として紹介。外国人客らも多く訪れるようになり、エサの量が増えるとともにウサギも激増した。コロナ前は900匹以上いたとされるが、コロナで訪れる人が少なくなるに連れてウサギも減少。環境省の目視調査では、昨年は400匹ほどとなった。
でも、コロナ禍の約3年間でそこまで減るものだろうか。そもそもウサギの寿命って? 飼いならされていた環境から野生に戻れるの? いろんな疑問が浮かんでくる。「訪れる人が減ってえさの環境が変われば、うさぎの行動も変わります。食べ物の草木を求めて山間部などに生息域を移したのかもしれません」とは、島を管轄する環境省広島事務所の担当者。寿命は個体によって異なるというが、栄養状態によって子どもが生まれる数が減った可能性もあるという。
一方、数年前まで島のウサギは「密」状態で、問題も起きていた。かわいい見た目とは裏腹に、実は縄張り意識が強い。そのためウサギ同士の争いやけんかが絶えず、けがを負う個体もいたという。しかし、コロナで個体が減ったことで近年は負傷したうさぎは少なくなったという。「数が増えると、けがや感染症のリスク高まる」と担当者。ウサギが減ったのは、必ずしも悪いことではないようだ。