「ドリームスリーパー」は、通路を挟んで1-1の完全個室からなる超豪華な夜行高速バスである。部屋数は11室であり、そこへトイレとは別にパウダールームなどを備えることから、日本有数の超豪華な夜行高速バスだと言える。コロナ禍となる前は、中国バスや両備ホールディングス、そして関東バスも加わって、東京(池袋)~大阪線だけでなく、東京~福山・広島線も共同運行を行っていた。筆者は、2022年9月24日に、池袋から大阪(JR大阪駅前)間で、関東バスが運行する「ドリームスリーパー」に乗車した。
ハイグレードな個室バスの誕生
「ドリームスリーパー」は、コロナ禍になる前は、東京~福山・広島間でも、中国バスが運行していた。「ドリームスリーパー」の前身は、中国バスが広島~横浜間で運行していた「メイプルハーバー」という夜行高速バスである。
このバスに転機が訪れるのが、2012年である。「メイプルハーバー」の続行便として投入された新型車両は、韓国のヒュンダイ製であったが、車内が通路を挟んで1-1の横2列の座席配置となった豪華な車輛であった。
当時の夜行高速バスは、1-1-1の独立3列配置の座席や、2-2の横4列の座席配置のバスが一般的であったが、中国バスは通路を挟んで1-1の横2列の座席配置のバスを導入した。
その後、2017年1月18日からは、東京~大阪線を「完全個室型」の新型のバスを使用する形で、関東バスと両備バスの共同運行という形で、新規に開設した。
この区間は、JRバスなどの他社との競合が多いが、「完全個室型」の新型のバスを投入する形で運行することで、新規需要を開拓したかった。池袋が起点となった理由は、池袋への需要が見込まれたからである。
同年の3月末で横浜~広島線の運行を止める代わり、翌日の4月1日からは、東京~広島線の運行を、「完全個室型」の新型のバスで運行を開始した。
名称の「ドリームスリーパー」は、「乗客に最高の眠りと上質なリラクゼーションをお届けする快眠バス」というコンセプトを、具現化させることを目指し決定した。
ハイグレードな完全個室のバスに乗車
「ドリームスリーパー」は、池袋駅西口の7番乗り場から、22:50分に発車する。全室個室のハイグレードなバスに乗車するため、バスへの乗車の期待が高まるが、バス停にバスが到着するのは、発車の10分前である。池袋から大阪までは、500km以上の距離があるため、運転手さんが2名で乗務を行う。
運転手さんは、高速バスの運転に秀でた精鋭が選ばれただけでなく、「ドリームスリーパー」専用の制服が用意され、1着が約20万円もするという。
1人の運転手さんが改札を行い、もう1人の運転手さんが、手荷物を床下の荷物置き場へ収納している。約2時間運転すれば、別の運転手さんと交代するという。
全室が完全個室の夜行高速バスであるから、バスへ入る前に靴を脱いでから乗車する。バスの車内というよりは、高級ホテルに宿泊するような雰囲気である。
個室内には、1人用の電動式のリクライニングシートが配置され、背もたれの傾斜やレッグレストの稼働も、電動で行うようになっている。個室に入ってこれらを操作してみたのだが、リクライニングの傾斜角度は、予想していた以上に浅かった。
筆者は、フルフラット化は安全上の理由から、法令で禁止されているため、無理だとは分かっていたが、意外と浅かった上、ボタン操作も少々複雑な感じがしたので、ハンドルを握っていない運転手さんに、操作方法を尋ねた。
運転手さんは、「これが限度です。でもこの座席は、体に掛かる重力を考えて設計されているため、疲れにくくなっています」とのことであった。
個室も、カーテン1枚で仕切るだけでなく、扉が備わっており、セキュリティーという面では、向上していた。
筆者は、かつて中国バスが運行する「ドリームスリーパー」にも乗車したことがあるが、通路との仕切りはカーテンだけであった。
個室内の設備として、大型の折り畳み式のテーブルとWi-Fiが備わっている上、電源コンセント以外にUSBポートが備わっているため、パソコンをテーブルに置いて仕事をする以外に、スマホなどへの充電も可能である。
それ以外として、備え付けのオーディオ用のヘッドフォンやハンガー、持ち帰りが可能なスリッパ、アイマスクと耳栓、歯ブラシなどのアメニティーグッズ、そしてプラズマクラスターイオン発生器も備わるなど、至れり尽くせりである。
パブリックな設備として、温水洗浄機能付きのトイレ以外に、女性客を意識してパウダールームも備わる。
その結果、「ドリームスリーパー」は、定員が11名と非常に定員が少ない超豪華な夜行高速バスとなった。
池袋駅西口を発車すると、途中で新宿駅に立ち寄るが、JR新宿駅の駅前にある「バスタ新宿」ではなく、新宿駅西口の14番乗り場に到着し、ここで乗客を乗せる。その後は、首都高速道路や東名高速道路などを走行し、南海なんばの高速BTに6:30に到着する。そして乗客を降ろした後で、JR大阪駅前へ向かう。JR大阪駅前は、高架下の桜橋口アルビ前である。
価格面では割高だが…
この「ドリームスリーパー」は、池袋~大阪間に運行されているが、週末の1往復しか運行されない。施錠こそ出来ないが、扉で完全に仕切られることがら、プライバシーが担保されており、折り畳み式の大型のテーブルやコンセントにUSBポート、Wi-Fiが受信可能である上、各種アメニティーグッズも備わるなど、至れり尽くせりのサービスである。その分、運賃も片道で1万8000円と割高である。
この価格は、JR夜行高速バスの「ドリーム号」が8000円前後であり、「グランドリーム号」が9500円程度と比較すれば、2倍前後の価格である。
東海道新幹線を利用した場合、東京から新大阪までの運賃が8910円であり、指定席特急料金が「のぞみ」が5810円、「ひかり」が5490円である。「のぞみ」の合計額は1万4720円となり、「ひかり」でも1万4400円となるため、「ドリームスリーパー」は割高であると言える。
だが東京~大阪間は、世界でも有数の高需要が見込める路線であり、「ドリームスリーパー」の定員は11名と少ないことから、毎日運行するだけの需要は見込めるが、共同運行の相手であった両備バスが、コロナ禍で需要が減少したことを理由に、運行が休止となり、2022年4月22日に離脱したため、週末だけの運行になっている。
両備バスが運行に復帰するか否かは、不透明であるため、暫くは関東バスが単独で週末だけの運行になるという。
車内サービスは至れり尽くせりであったが、パウダールームの洗面台を使用する際は、安全上、椅子を引き出さないと、水が出ない仕組みになっている。これはトイレに関しても同様であり、完全に扉を閉めて便器に腰を掛けないと、水が出ない仕組みであった。
「ドリームスリーパー」は快適であるが、トイレに関しては従来型のバスと床面積が同じであるから、大人の男性がトイレに入って完全に扉を閉めることは、体格が大きい人には厳しい。パウダールームやトイレの水道に関しては、再考の余地があるように感じた。
「ドリームスリーパー」は、非常に快適であり、揺れなども無かったため、新宿を発車した後、熟睡してしまい、難波到着の車内放送で目を覚ました。価格面では割高ではあるが、機会があれば乗車してみたいと思っている。
◆堀内重人(ほりうち・しげと) 1967年大阪に生まれる。運輸評論家として、テレビ・ラジオへ出演したり、講演活動をする傍ら、著書や論文の執筆、学会報告、有識者委員なども務める。主な著書に『コミュニティーバス・デマンド交通』(鹿島出版会)、『寝台列車再生論』(戎光祥出版)、『地域で守ろう!鉄道・バス』(学芸出版)など。