前作のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」に登場してSNSなどで注目された、京都発祥の黄色い通学かばん「ランリック」。カムカム効果で、家族で経営する製造メーカーには京都以外からの問い合わせも増えているという。原材料高騰や少子化といった逆風が吹き、ランドセルを品定めする「ラン活」も激しくなる中、一家は「軽くて安く丈夫なランリックの魅力を広くPRしたい」と思いを語る。
2021年11月~22年4月に放送されたカムカムは、岡山や大阪、京都を舞台に、大正から令和まで母娘孫の3代100年にわたるファミリーヒストリー。ランリックがお目見えしたのは1970年代の京都編で、小学生時代の3代目ヒロイン大月ひなたの部屋に掛けられていたほか、小学校の教室や鴨川河川敷の場面でも黄色のかばんを背負う姿がたびたび登場した。ツイッターでは「懐かしい」「ランリックに反応してしまう京都府民です」などと盛り上がりを見せた。
いじめをきっかけに誕生
製造・販売するのは学生用品メーカー「マルヤス」(京都府向日市)で、初代社長の故鈴木正造さんが1968年に考案した。当時、ランドセルはとても重かった上、高級化が進み、保護者らの経済的負担が大きくなっていた。牛革製ではなく、安価な豚皮のランドセルを使っていた児童が「ブタ、ブタ」と学校でいじめられたことがあり、小学校長が代わりとなるかばんの製作を正造さんに相談。約1年の試行錯誤の末、ナイロン製で軽量かつ丈夫なランリックが誕生した。
折しも高度経済成長期を迎えて車社会が進み、「交通戦争」と呼ばれるほど事故の死傷者が急増していた時代。子どもたちを守りたい一心で、カラーは道路警戒標識を参考にひときわ目立つ黄色にした。現在、京都府中南部の小学校を中心に、滋賀や大阪、九州や関東の一部でも使われている。
ベルトの太さ、縫製の仕方、金具の形…。毎年のように改良を重ね、学習指導要領の改訂で教科書類が増えた時には、保護者からの要望で特大サイズが加わった。黄だけでなく赤と紺の3色展開となり、ランドセルにより近いデザインの「ランリックⅡ」もある。ちなみに、正式な商品名はランリックだが、ランリュックも商標登録しており、呼び方はどちらでも問題ないとか。
大きな反響、ランリック導入に向けた動きも
現在、正造さんの長男鈴木大三さん(67)が社長を務め、大三さんの妻真弓さん(63)、長男の康弘さん(38)ら家族で経営している。実はランリックがカムカムに登場することは、事前には誰も知らなかったという。前もって20個ほど注文が入り、送付先がNHK大阪放送局だったことから、「ドラマの撮影にでも使うのだろうか」と疑問が浮かんだ。後に京都もカムカムの舞台となることを知り、真弓さんは「70年代という時代設定からもしかしたら…と思っていたら本当に出てきたので驚いた」と笑みをこぼす。
放送後にはSNSだけでなく、近所の人たちから「ランリック出てたね」と連絡を受けたり、遠方から客がわざわざ来店したり。電話やメールを含めて大きな反響で、ネットショップのアクセス数も2~3倍になった。府外からも問い合わせがあり、一部地域では来年度から新たにランリックの導入に向けた動きが出ているという。
真弓さんは「ランドセルが高く、重いという問題は今もあり、ランリックを作った当時と状況は似ているのでは」と話す。実際、一般社団法人日本鞄協会ランドセル工業会の調査(2022年)によると、ランドセルの購入価格帯を「6万5千円以上」と回答した割合が30.4%と最も高く、平均価格は前年より千円余り増えて5万6425円だった。
ランリックはナイロンや合皮といった原材料の高騰で7月に値上げに踏み切ったとはいえ、特大サイズで1万3200円とお手頃感が際立つ。重さについても1kg以上のランドセルが多い中、ランリックは大型サイズだと約670~約720g、特大でも約760gと軽量だ。
「製作の背景やエピソードを伝えていけたら」
その一方、少子化の影響や多色展開などランドセル各社の攻勢もあり、ピーク時に年間約2万個に上ったランリックの販売数は、今では半分以下になっている。カムカムであらためて注目されたのをきっかけに、今後はインターネットでの情報発信にも力を入れるつもりだ。
凝り性だったという正造さんが2015年に亡くなった後、通学かばんなどに関する新聞記事のスクラップや手書きの交通事故統計、生地素材のサンプルなど膨大な資料が残されていることが分かった。大三さんや康弘さんは「これまで当たり前のように作ってきたが、ランリックには細部までさまざまなこだわりが詰まっている。そうした製作の背景やエピソードなどをもっと伝えていけたら」と思いを語る。
誕生から半世紀余りとなるランリック。親子だけでなく、3代にわたって使用するケースが出始めているとともに、鈴木さん一家にとってはファミリーヒストリーでもある。「カムカムを見た人から想像以上の反響があり、多くの人に長年愛されてきたことがあらためて分かったし、初めて知った人にとっても選択肢の一つになればうれしい。お客さんや学校の支えに感謝しながら、これからも時代に合ったランリックを作っていきたい」