夜明け前の暗い空の上、星々の間を静かに飛んでいく「スターリンク衛星」の動画がTwitterに投稿され注目を集めました。その姿ははるか彼方の終着駅を目指し、宇宙を旅する銀河鉄道のようです。撮影時のことを投稿した藤井大地(@dfuji1)さんに聞きました。
「スターリンク(Starlink)衛星」は米実業家イーロン・マスク氏が設立した「スペースX社」が衛星インターネットサービス「スターリンク」提供に向けて打ち上げている人工衛星です。衛星が連なって飛ぶ様子は「スターリンクトレイン」と呼ばれ、上空を通過する様子を撮影した写真や動画が多数Twitterに投稿されています。
話題になった動画は、衛星群が一列になって群青の空を横切り、雲の中に消えていくまでを1分以上にわたりクリアに撮影しています。その光景に魅せられた人たちから「銀河鉄道だ!」という声が次々寄せられ、さらに「絶対、メーテルと鉄郎乗ってるやん」「確かに銀河鉄道の窓からもれる灯りに見える」と想像する人も。また「打ち上げられたばかりだとまだバラけてなくていいですね!映像ありがとうございます」と投稿主に感謝の気持ちを伝える人もいました。
投稿した藤井大地さんは「平塚市博物館」(神奈川県)の天文担当学芸員です。ふだんは館内のプラネタリウムで来館者に向け、直接解説をしているのだそう。流星や宇宙開発が好きで、平塚の自宅と富士の実家を拠点に火球や月面衝突閃光、スプライト、人工衛星、富士山の定点観測を続け、撮影した動画や写真をタイムラインに投稿しています。藤井さんに「スターリンク衛星」を目撃した時のことを語っていただきました。
目でもはっきりと見えた
――「スターリンク」は最近、各種メディアでよく取り上げられていますね。
スターリンク衛星は、人工衛星を通じて世界中どこでもインターネットが使えるサービスを提供するための、スペースX社の通信衛星です。現在のシステムでは専用のアンテナが必要ですが、将来的には第2世代のスターリンク衛星で、スマートフォンと直接通信する計画もあります。つい最近iPhone14が発表され、アメリカやカナダで緊急時のみにテキストベースの衛星通信ができることが話題となりました。今後スペースXやアップル以外にも、スマホと直接通信するサービスが計画されています。
――動画を撮影した時のことを教えてください。
2022年9月6日4時15分に平塚の自宅から撮影しました。撮影には望遠レンズとデジタルカメラを用い、三脚に載せて手動でゆっくり追尾しました。それほど高倍率ではなく、目でもはっきりと見える明るさだったので、向けやすかったです。
――目視できたのですね。
肉眼でもはっきり捉えることができました。これまで何度もスターリンク衛星を観察してきたのですが、今回は久しぶりに打ち上げ直後の様子を見ることができたので、嬉しかったです。ただ初期のスターリンク衛星に比べ光害対策が施されたため、以前より暗くなりました。
宮沢賢治の銀河鉄道やアニメの銀河鉄道999を思い浮かべた人が多かった
――動画にたくさんのコメントが届いています。
コメントをすべて見ることができていないのですが、宮沢賢治の銀河鉄道やアニメの銀河鉄道999を思い浮かべた方が多かったですね。私はスターリンク衛星を観察しているときは、いつもささきいさおさんが歌う銀河鉄道999の主題歌が脳裏を流れています。
――「スターリンクトレイン」を見たい、と願っている人たちへアドバイスをいただけますか。
衛星同士が近くに並んでいるのは打ち上げから数日の間で、ちょうど日本上空に見られるチャンスは少ないです。事前にスペースXから打ち上げ軌道が公表されることがあり、『Heavens-Above』などの予報サイトで見え方を確認することができます。ただ天候や機器のトラブルでロケットが予定通りに打ち上げられないことがあるので、注意が必要です。
打ち上げから数日後には、地上からの観測で軌道が確定し、正確な位置を知ることができます。もし見えそうな場合は、時間があれば発信していきたいと思います。また、スターリンク衛星は条件によってはかなり暗く見えます。観察には双眼鏡を用意しておくのがおすすめです。
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さらに「スターリンク衛星撮影には高感度なデジタルカメラがおすすめですが、一等星ほどの明るさで見えることもあるので、場合によってはスマートフォンで撮影できるかもしれません」とも話す藤井さん。アカウントのタイムラインには今回の投稿だけでなく、自身で撮影した美しい天体や富士山の動画が多数投稿されています。こちらもぜひチェックしてみてくださいね。
▷藤井大地さんTwitter|https://twitter.com/dfuji1