漫画家楳図かずおさんの比類なき芸術性に焦点を当てた展覧会「楳図かずお大美術展」が、大阪・あべのハルカス美術館で始まりました。楳図さんの先見性や幻視的なビジョンに満ちた代表作「漂流教室」「わたしは真悟」「14歳」の3作品をフィーチャー。中でも27年ぶりの新作にして、「わたしは真悟」の世界観を受け継いだ101点の連作絵画である「ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館」は、ファンの度肝を抜く画期的な展示になっています。
ホラー、ギャグ、SF、アクション…とジャンルを自在に横断しながら、今回の大美術展の3作品をはじめ、「猫目小僧」「おろち」「洗礼」「まことちゃん」「神の左手悪魔の右手」など、傑出した作品を生み出してきた楳図さん。大美術展は、「漫画」という既存の分野だけでは到底語り切れない楳図さんの魅力を、「芸術」を切り口に提示する試みです。
27年ぶりの新作「ZOKU-SHINGO」
最大の見どころである「ZOKU-SHINGO」は80代の楳図さんが素描に2年、着彩に2年を費やした「新作」かつ「連作絵画」という空前絶後の作品で、一足先にお披露目された東京会場(2022年1月28日〜3月25日、東京シティビュー)でも大きな話題になりました。小さなロボット「さとる」と「まりん」が、屋敷に住むマダム女王や処刑ロボットから逃れて一緒になるという「ロボットに起きたおとぎ話」です。さとるとまりん、さらには産業用ロボットや東京タワーなど「わたしは真悟」で描かれたモチーフが登場しますが、「続編」かどうかは明示されておらず、あくまでも「続」ではなく「ZOKU」と謳われています。
101点のアクリル絵画によってひとつの物語が展開するという構成ですが、もちろん、それぞれを一点の自律した絵画作品として鑑賞することもできます。
楳図ワールド×気鋭の現代アーティスト
「ZOKU-SHINGO」を中心に据え、その前後を「漂流教室」「わたしは真悟」「14歳」が囲むという構造の会場には、エキソニモ、冨安由真さん、鴻池朋子さんという3組の現代アーティストが楳図作品をテーマに制作したインスタレーションも展示されています。
エキソニモによる映像インスタレーション「回想回路」は、「わたしは真悟」が描かれてから約40年が経過した今も、もし「真悟」の思念がネットワークの中に息づいていたら…という着想から誕生。漫画のコマ割りのように大小様々なモニター12台が垂直に配置され、「わたしは真悟」の場面がランダムに切り替わりながらゆらゆらと映し出される仕掛けです。床には総重量およそ2tにもなるという大量のケーブルが敷き詰められ、その上には物語の中で「東京タワーのてっぺんから飛び移る」際に使われたランドセルが…。この展示、東京会場では背景に本物の東京タワーが見えるという見事な演出で、訪れた人たちをあっと言わせました。
「ZOKU-SHINGO」の素描101点や作中のイメージを取り入れた冨安さんの作品、「14歳」をテーマにしながら楳図さんの芸術家としての姿勢に共鳴する鴻池さんの作品も、楳図ワールドをアート的な視点でさらに拡張。「漂流教室」のラストシーンから、「14歳」(パーフェクション版)のラストシーンへと円環を描くような展示構成の妙にも注目です。
大阪会場での開催に当たり、楳図さんは「とにかく僕は誰にも負けないように描きました。自信満々の作品になっているので、ぜひ皆さんに観てほしいです」とコメント。あべのハルカス美術館の学芸員、新谷式子さんも「今こそ再評価するタイミング」と力を込めます。
ギャアーッ!!!グッズもすごいぜ
図録をはじめ、グッズも大充実。Tシャツやスウェットなどのアパレル、豆皿やグラス、手拭い、マスキングテープ、ポストカード、ボールペン、キーホルダー、アクリルスタンド、果ては食品まで、とにかく大変なことになっています。「奇跡は誰にでも/一度おきる/だが/おきたことには/誰も気がつかない」という「わたしは真悟」で繰り返し語られる印象的なフレーズ。「奇跡」はもう、起きているのかもしれません。そう、今、大阪でね!
チケットは当日一般1700円、大高生1300円、中小生500円など。会期は11月20日まで。
【公式サイト】https://umezz-art.jp/