子供が道路へ飛び出そうとしている姿を描いて、ドライバーへの注意を促す目的で設置された看板を俗に「飛び出し坊や」と呼ぶが、瀬戸内海に浮かぶ小豆島(香川県小豆郡)には「飛び出しおじいさん」がいると聞いて、役場へ問い合わせてみた。
ある意味レア? 30個設置したうち残っているのは数個だけ
「飛び出しおじいさん」の目撃情報が小豆島町池田の交差点だというので、まずは小豆島町役場へ問い合わせた。
役場の総務課で調べてもらったところ「2001年(平成13)以前に、土庄(とのしょう)町役場が設置したようです」という。小豆島には「小豆島町」と「土庄町」がある。
当時の担当部署が土庄町役場住民環境課だと教えてもらい、問い合わせた。
「20年以上も前のことなので、正確さを欠きますが」と前置きがあって「2001年より前に設置したらしい」という回答を得た。ただ、2001年より前のいつなのか、詳しいことは分からないとのこと。
伺った話を総合すると、次のような経緯が浮かび上がってきた。
2001年より前、町の住民の方が、ある場所で「飛び出しおじいさん」の看板を見かけて「これ、いいんじゃない? 町内にも設置したい」と思い立った。その後、どのような経緯を経たのか分かる人がいないそうだが、最終的に町議会を通して予算措置がなされ、老人クラブの安全部会と町役場が協力して、滋賀県にあるメーカーへ30個を発注したという。
1個当たりのお値段が気になるが……。
「安くはなかったと聞いています」
小豆島町でも見られる「飛び出しおじいさん」は、そのとき設置された一部ではないかとのこと。
「かなり劣化して土台だけになっているものもあるし、撤去された場所もあるだから、形が残っているのは今では数カ所くらいではないかと思います」
ところで、上のふたつの写真を見比べてほしい。土庄町豊島(てしま)家浦の交差点である。アングルは異なるが、同じ場所を写した写真だ。上の撮影日は2013年6月と表示されていて、交差点に「飛び出しおじいさん」が立っている。下の写真はその8年後の2021年7月撮影で、「飛び出しおじいさん」の姿はない。撤去するときは土台ごともっていくはずだから、朽ち果てて土台と赤錆びた支柱だけが残っているのだろう。たまたま8年の時を経た画像を入手できたからこそ見えた、時代の流れである。
さて、2020年に行われた国勢調査によると、土庄町の人口は1万2846人。そのうち65歳以上の高齢者は4528人で、人口の約35.2%を占める。交通事故件数は、今年1月1日から9月6日(取材日)までの累計が10件ていどで、死亡事故はゼロだそうだ。
都会で暮らす感覚から見れば、「飛び出しおじいさん」が設置された当時も、看板を設置してまで交通安全を注意喚起する必要に迫られたとは思えないのだが…。
「看板を設置した結果、住民の方が安全を意識するきっかけになったことがいいのかなと思います。実際、そういった声もあったみたいです」
今、瀬戸内の島々では3年に1度開催される「瀬戸内国際芸術祭」が行われており、春と夏の会期が終わって、次は9月29日から11月6日まで秋の会期が予定されている。小豆島も会場のひとつになっているので、島外からふだんより多くの観光客が訪れたはず。「飛び出しおじいさん」を見た人は、どう反応しているのだろうか。
「役場では、とくにそういった話は聞いていませんね」
SNSでは「飛び出しおじいさんは珍しい」という投稿を見かける。だが、「飛び出しおじいさん」は土庄町のオリジナルではないらしく、兵庫県でも「飛び出しおじいさんを見かけた」という投稿があった。
最後に余談ながら、小豆島の特産品はオリーブ。そのオリーブがモチーフにしたゆるキャラ「オリーブしまちゃん」がいる。小豆島内外で観光PRに活躍する傍ら、やはりというべきか「飛び出しオリーブしまちゃん」もあって、島の交通安全に一役買っているようだ。