プロのヘアメイクで社員ポートレート撮影→社内コミュニケーションを促進  老舗フォントメーカーに狙いを聞いた

中将 タカノリ 中将 タカノリ

長引くコロナ禍の影響で、個人の働き方は大きな変化を遂げた。

テレワークの普及については肯定的な取り上げ方をされることが多いが、デメリットが無いわけではない。特に企業内でのコミュニケーション不足は大きな問題。いくら電話やインターネットでやりとりできると言っても、実際に顔をあわせてオフィスで時間を共有するのに勝ることはない。チームで仕事にあたっていても細やかな情報やビジョンが共有しづらいなどさまざまな課題が指摘されているのだ。

現在、多くの企業でコミュニケーション促進のための対策を講じているようだが、フォント開発で知られる株式会社モリサワの施策は一風変わっていてユニーク。なんと全社員を対象にプロのヘアメイクアーティストとフォトグラファーを付け、ポートレートを撮影するというのだ。

ポートレート撮影がどのように社内コミュニケーションの向上に作用するというのだろうか。企画の担当者にお話を聞いた。

ーー今回の企画の概要、趣旨についてお聞かせください。

担当者:現在、モリサワには全国8拠点に約340名の社員が在籍しており、年々増加傾向にあります。企業では一人一人の能力や知見が社内に知られること、つまり、トランザクティブメモリーと言われる「誰が何を知っているか」の共有を目指すことが肝心になると思うのですが、モリサワは元々、各拠点が離れていることに加え、昨今のコロナ禍で出社すら難しい状況が続いていました。そこで昨年、業務上のことだけでなく、社員の人となりの共有も大事と考え、新しく社内コミュニケーションの促進を目指す「タテヨコナナメプロジェクト」が発足しました。今回の企画「みんなのポートレート」はその一環として実施されたものです。

以前、別企画で、ある地方拠点のSDGsへの取り組みを社内に紹介したことがありました。その中で拠点メンバー全員の写真を社内のイントラネットに掲載したところ、反響に手ごたえを感じました。みんな同じ会社にどんな人がいて、どんなことを考えているのか知りたい、知ってほしいという思いがあったんですね。今回の「みんなのポートレート」はそういった組織で働くことの大切さにフォーカスして、発展させたものと言えるかもしれません。

「みんなのポートレート」は、撮影後のポートレートのさまざまな活用を期待するだけでなく、撮影のための出社が久しぶりに顔を合わせる機会となって、撮影のプロセス全体が社員の繋がり強化になることも期待していました。さらに一人一人が撮影日時を申し込む予約制だったこともあり、同時間に予約した面識のない社員同士が話せる機会になったのも、予想外のコミュニケーション促進の効果を生んでいました。

ーープロのヘアメイクやカメラマンを起用するというアイデアが生まれ、受け入れられた経緯をお聞かせください。

担当者:これまでも会議室などで簡易な撮影をして社員証に使うといったことはあったので、そういうものとは違うワクワクするような企画として打ち出したいという思いがありました。一人一人の個性を引き出しながら、統一感や共通する部分のある雰囲気、仲間としての一体感が保てるよう同じ背景を使って、プロにスタイリング、撮影してもらうことにしました。

ただ写真を撮られることが苦手な人もいると思います。ですので、参加はあくまで任意として、ヘアメイクも含めた撮影に関する説明や計画の目的が伝わるよう丁寧な周知に努めました。それでも伝わりきらない部分もあって今後の課題としていますが、結果300人以上、約9割の社員が参加くださったことに驚いています。

ーー実際に企画を実施されたご感想をお聞かせください。

担当者:まず社内に実際の撮影、ポートレートがこういうものだと伝えたくて、私が最初にスタイリングと撮影をしてもらい、すぐにその写真をイントラに掲載しました。プロの方に手をかけて撮影してもらう機会はそうそうないので緊張しながらもワクワク、楽しいひとときでした。イントラにあげた写真を見た社員からも「どんなものかよく分かった」と声を掛けていただいたので、心の準備をしてスタイリングと撮影に臨んでいただけたと思います。またヘアメイクの方やフォトグラファーの方が、社員一人一人に合わせていろんな語り掛けをしてくださっていて、それぞれの個性や魅力を引き出していくそのプロセスを見て、社内のコミュニケーションもこうあるべきだなと感心するばかりでした。

初め不参加のつもりだったのが、みんなが楽しく参加している様子を見て「やっぱり撮影したい」と手を挙げてくれる方も多かったです。参加者からは好意的な反響をいただき、御礼を言ってくださる方もいらっしゃって、こちらが恐縮するくらいでした。後日、社内コミュニケーションツールのプロフィール画像が、今回のポートレートに変わっている人も増えてきていて、セミナー講師のプロフィール写真として使っている社員もいます。実際に写真を使ってもらえている話を聞くと、この企画をやって良かったなととても嬉しく思います。

ーー今回の企画をふまえ、今後のタテヨコナナメプロジェクトの取り組みについて抱負をお聞かせください。

担当者:ライフワークバランスの取り方やテレワークの増加など、コロナ禍以前と以後では会社と社員の関わり方、能力を発揮できる組織の在り方、社員同士の繋がり方は大きく変化しています。タテヨコナナメプロジェクトではそういった変化を捉え、社員同士が個性を尊重しあって、自分らしさや能力の発揮できる職場環境づくりや、部署や拠点を横断して取り組まなければいけない業務を円滑にするための取り組みをしたいと思っています。

するべきことは多岐に渡りますが、レクリエーション的なものだと部署横断キャンプのような企画も面白いかもしれませんね。普段、同じ部門内でもあまり面識のないメンバーや初めて会うメンバーと一緒に作業して楽しむことで生まれる連帯感を、今後の業務に活かすことができると思うんです。

◇ ◇

今回の企画にヘアメイクで参加したメイクアップアーティストで俳優の三枝雄子さんは撮影時の様子を次のように語る。

「初めは硬くなっている方もいましたが、お話しながらヘアメイクを進める中で緊張がほぐれ、撮影の段階ではみなさん笑顔になっていました。久しぶりに顔を合わせるのか、撮影の前後に楽しそうにお話されている方が多かったのが印象的でした。このような企画に参加するのは初めてでしたが、満足気なお顔をたくさん見ることができて嬉しかったです」

コロナ禍による変化を肯定的に受け止めて、時代に即したユニークな企画で社内コミュニケーションの促進をはかる株式会社モリサワ。今後の取り組みにも注目していきたい。

株式会社モリサワ 会社概要

1924年創業の老舗フォントメーカー。「文字を通じて社会に貢献する」を社是に研究・開発を続け、1500書体以上が使えるフォントライセンス製品「MORISAWA PASSPORT」などを提供。直近では新たにクラウド型フォントサービス「Morisawa Fonts」を発表。文字のかたちがわかりやすく読み間違えにくいことをコンセプトにユニバーサルデザイン(UD)フォントを開発・提供し、第三者機関と共同で可視性・可読性に関する比較研究報告を実施している。

本社所在地:大阪市浪速区敷津東2-6-25
東京本社所在地:東京都新宿区下宮比町2-27
公式ホームページ:https://www.morisawa.co.jp/

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三枝雄子(さえぐさ・ゆうこ)プロフィール
俳優。1969年生まれ。兵庫県佐用町出身。大阪芸術大学短期大学部デザイン学科彫刻専攻卒業。グラフィックデザイナーを経て25歳で俳優デビュー。サスペンスドラマで存在感を発揮し「サスペンスドラマの名わき役」と評された。主な出演作に「父さんは森に隠れる」(NHK)、「土曜ワイド劇場『京都B級グルメ殺人メニュー』」(ABC)、「水戸黄門」(TBS)など。近年は俳優業に加えラジオMC、ライターなど幅広いジャンルで活躍している。
facebookアカウント:https://www.facebook.com/saegusa.yoko

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