鉄工所がなぜクラフトビール造り、社長に聞いた 「等身大の鉄人28号」を手掛けた会社が「岸和田ビール」

八木 純子 八木 純子

 9月1日にウワサの地ビール「岸和田ビール」がデビューする。手がけたのは、大阪府岸和田市に本社がある(株)北海鉄工所。鏡板(かがみいた)では国内シェア50%以上を誇り、その技術を生かして、神戸・新長田の等身大の鉄人28号、神戸開港150周年記念のBE KOBEなどのモニュメント製作も手がけている。そんな北海鉄工所がなぜ、クラフトビール造りにチャレンジするのか。林孝彦社長に聞いた。

チャレンジ精神旺盛な鏡板のトップメーカー

 北海鉄工所は岸和田市の臨海町鉄工団地内にある。創業は1926年。造船を中心として溶接全般を請け負う製缶業からスタート。当初、鏡板は専門業者に依頼していたが、品質が悪く、納期があいまいだったり、価格が高いなど問題も多かったという。

 そこで、初代が自社でつくることを決意。今では同社の基幹製品として国内シェア50%以上を誇り、世界最大規模の圧力容器用鏡板を製造できるトップメーカーにまで成長している。

 鏡板とは鏡餅のような半球体の形状のタンクなど圧力容器の蓋部分のこと。タンクローリーのタンクの蓋部分やビール工場などの飲料水貯蔵タンク、原子力分野でも圧力容器などに使われているという。その技術は宇宙ロケット用球形燃料用タンクや鉄道車両、前述したモニュメントなどにも活用されている。

ビール製造のきっかけは社内の技能コンテスト

 当然のことながら製品の品質を維持するには、高い技術が必要となってくる。そこで、社内の技術向上のために始めたのが「S-1グランプリ(Sとは製造)」だった。社内でチームを作り、タンク造りを競うのだ。これがきっかけで、ビール造りの発想も生まれることになった。

 「有名なビールメーカーにも鏡板を供給させてもらっていますので、自分たちの手でビール醸造する装置、ビールタンクは造ることができると思いました」。そして、ビールタンクを造れば、勢い中身のビールも造りたいと考えるようになっていったという。

 加えて、2021年には創業75周年を迎え「今までいろんな形で岸和田のみなさんにお世話になってきました。何かお返しはできないかと考え、ビール造りを通して、地域振興や雇用の創出、社会貢献になればと思いました」と林社長は話す。

 現在は北海鉄工所敷地内に、これまでに培ってきた鏡板の加工技術を生かした醸造所を建設中。そのため、今は他の醸造所のタンクを借りてビール造りを行っているが、林社長は「2023年3月からは自社設計・自社製造の設備でのクラフトビール醸造を実現させたい」と意気込む。また、社員2人を醸造家に育てるため、専門家に預けて、勉強してもらっているそうだ。

鉄工所が本気で造るクラフトビールの味は?

 その岸和田ビールが発売されるのは9月1日から。3種類あり、アルコール度数は5%で価格はすべて550円(税込)とのことだった。

 ネーミングがズバリそのものの「鐵工(てっこう)」(スタイル:小麦エール)は、小麦麦芽を50%以上使用し、通常のエールタイプよりもさらに柔らかな口当たりが特徴だ。また、カスケードホップとシムコーホップの華やかな柑橘系の香りのホップを使用することで、さわやかなのどごしも評判になりそうだ。

 「黒鐵(くろがね)」(スタイル:ブラウンポーター)はローストモルトとカラメルモルトをブレンドし、ローストした麦芽の香ばしい風味とコクのある味わいの黒ビールだ。

 一方「白鐵(しろがね)」(スタイル:ライトエール)は軽やかなのどごしのエールタイプ。絶妙なホップの配合を施した味わいと飲みやすさが特徴で「ホップが苦手な人もぜひ、味わってほしい」という。

地域へ還元、収益の一部はこども基金へ

 実際、味わった地元の人たちからは「これなら、いける」と賞賛する声が多い。林社長も「ぜひ、岸和田に来て、地元の飲食店で味わってほしい」と話し、流通の基本はなんと岸和田オンリー。ただし、発売前から岸和田市以外の人からも「飲んでみたい」という要望があり、通販での販売も考えたいとしている。

 また、その収益の一部は「岸和田未来こども基金」を設け、学業支援をはじめとするこどもたちの未来を応援する取組みに使われる予定だ。そのため「みんなで岸和田ビールを飲もう」という地元の声もあった。

 林社長の夢はさらに広がり「将来はビールの原材料も岸和田産の地産地消にこだわっていきたい」と意気込んでいる。

▼株式会社北海鉄工所・クラフトビール室
https://kishiwada-beer.com/

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