「元気でいられるのはこの薬のおかげ」 ジム、旅行、カラオケを満喫する80歳目前の女性 ごほうびの時間の生き方

ドクター備忘録

川口 惠子 川口 惠子

「更年期障害の治療ってどのくらい続けないといけないんですか?」

よく患者さんから受ける質問です。

ホットフラッシュや発汗などの症状は個人差もありますが、多くの方は2、3年で治まります。しかし低下した女性ホルモンが再びよみがえることはなく、女性はその後30年以上女性ホルモンなしで生きていかねばなりません。

女性ホルモンによって守られていた体には様々な変化が起こります。閉経とともにコレステロールが高くなり、高脂血症や動脈硬化、高血圧といったメタボ疾患になったり、脳梗塞や狭心症や心筋梗塞を起こしやすくなります。骨が弱くなって骨粗鬆症や骨折を起こすようになります。膣、外陰部、膀胱、尿道粘膜の萎縮によって、膣炎、性交痛、膀胱炎、頻尿、尿失禁など様々な問題がでてきます。認知症も女性に多く、これも女性ホルモンと関係しているという説もあります。このような老年期に起こる様々な症状は老年期障害と呼ばれ、実はこちらの方が更年期障害よりも厳しくて長いものなのです。

患者さんの中にはクラシックバレーやダンスの先生、ヨガのインストラクターをされている方がおられますが、彼女たちの下腹には脂肪がほとんど溜まっていません。彼女たちを見る度にライフスタイルがいかに健康に影響を与えるかよく分かるなあと、私は自分のお腹に溜った脂肪をなでながら考えています。老年期障害の多くは若い時からのライフスタイルの歪みや無理の結果に老化が加わってできたものです。

といって過去を悔やんでも仕方がないので問題はこれからです。なにしろ人生100年は言い過ぎにしても女性の4割は90歳以上生きる現代です。更年期はその後の人生についてライフスタイルや食事、運動、医薬品、サプリメントなどを見直す絶好の機会と言ってよいでしょう。

Fさんが初めて当クリニックに来られたのは彼女が58歳の時でした。この時彼女は既に他院で数年間エストロゲンパッチと黄体ホルモン内服によるホルモン補充療法を受けており、転居のため引き続き同治療を希望して来院しました。彼女は閉経して既に数年たっており、ホルモン剤を希望するのは更年期症状ではなく母親がひどい骨粗鬆症だったので骨や関節の老化を防ぎたいためでした。

私は彼女にエストリオール内服を勧めました。エストリオールは弱い女性ホルモンで長年にわたって服用するのに適しています。黄体ホルモンを併用しなくてはいけないのは他のエストロゲンと同じですが、それに伴って起こる出血はほとんどないか、あっても少量です。彼女はエストリオールが気に入ってずっとこのホルモン剤を使い続けました。骨粗鬆症の予防には運動が良いので週3回はジムにも通いました。それか20年彼女は大変元気で運動に精を出し、カラオケを楽しみとても80歳近いとは思えません。「こんなに元気でいられるのはこの薬のおかげだと思います」と彼女はまだまだ趣味や旅行を楽しむ予定です。

自然界の多くの動物は繁殖期間が終わると直ぐに寿命が尽きてしまいます。人間も大昔は閉経を迎える前に死ぬ人のほうが多かったのです。第二次世界大戦前は末っ子が小学校を卒業する頃にはお母さんは寿命が尽きてしまい、まさに子育てに追われる人生でした。現代の女性の平均寿命は約88歳です。閉経後の年月は人類の努力の結果、文明の進歩によって神様から与えられたごほうびの時間です。

ある産婦人科の先生は老年期を健やかに生きるためには「人は骨と血管から老いるので骨と血管に気をつけながら、がん検診を定期的にうける」ことが肝要だと言われました。せっかくのごほうびの時間ですから骨と血管の老化に気を配りながら多いに楽しみたいものですね。

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