市街地でよく見かけるプレハブのアパート。なんの変哲もない、無個性で目立たない集合住宅が、アイデアあふれる「外観のリノベーション」で人気の物件に生まれ変わりました。地域に受け継がれる“伝統色”に塗り替え、土蔵のように仕立てた建物は、個性的でありながら「どこか懐かしい」雰囲気も。驚きの再生ビフォーアフターをご紹介します。
リノベーションに取り組んだのは、東京と大阪に拠点を持つデザイン会社・インターデザイン。室内のリノベーションではなく外観、特に建物の「顔」でもある「共用部」のデザインのみを提供する「外リノ」というサービスを行っています。注目の建物について解説してもらいました。
地域にあったデザインで、無個性な建物を記憶に残る建物に
今回ご紹介するのは、京都市左京区の静かな住宅地に建つアパートです。東山を臨む洛北の景観はのどかで、京都の中心地とは異なる「どこか懐かしい雰囲気」が地域のそこかしこに漂っています。そんな景観に溶け込んだ、2階建てのプレハブアパートについて、魅力ある建物にしたいと相談を受けました。
田畑に隣接して建つ様子に、のどかな暮らしを楽しめるアパートであるとは感じましたが、京都どころか全国どこでも見受けられる建物ですから、いかんせん個性が弱くて目立ちにくい。新築のアパートが隣に建てば、新しい住人の方はそちらに流れてしまうかもしれません。
特段に競争力も強くない建物から脱却するため、「地面に近く戸建て住宅に近い感覚」「鉄筋コンクリートのマンションに比べてリーズナブルな家賃で住まえる」といったプレハブアパートの特徴はそのまま、より「個性的でこだわった外観」で、建物を再生することにしました。
具体的には、田畑と里山が残る地域の風景になぞらえた、「どこか懐かしいデザイン」にすることで、記憶に残るような建物であったり、地域の「象徴的な景観」にできないかと考えました。
まず、建物全体を改修で塗装しなおすタイミングだったため、洛北の景色になじむ「檜皮(ひわだ)色」で塗ることにしました。檜皮はヒノキの樹皮のことで、この檜皮で葺いた屋根は京都でもお寺や神社などの古い建物で見ることができます。その檜皮の名前が付いた檜皮色はこの街の景観に本当によくなじみます。
多くのプレハブアパートは構造的にシンプルな切妻屋根となりますので、いやおうでも三角形の側面の壁(妻壁)が目立ってきます。そのままでは無表情で面白みがないので、この三角のラインを、淡い薄墨(うすずみ)色という伝統色で強調することで、この地域にある「土蔵」のような雰囲気にできればいいなと思いました。
また、よく日本の古い家屋には側面の壁に「水」や「龍」などの火事除けのまじないが描かれています。そこでアパートの屋号を紋章風にデザインしたものを、同じようにアクセントとして描いてみることにしました。
なお、京都市の中心地は統一性ある街並みを保つため、建物の色彩が一定範囲内に決められています。この小さなアパートも敷地全体で一体感があるようにするため、併設の駐車場、駐輪場、自動販売機などもすべてに檜皮色を施し、色彩を統一しました。
こういったデザインを施したアパートは、隣接する田畑から臨むと、まさに「洛北の昔懐かしい情景」を漂わせているように感じられます。一見して住宅には見えないかもしれませんが、こういったものを面白いと思っていただける人たち、特に若い人たちに住んでもらい、「リーズナブルで、こだわりのアパートに住んだ」という思い出をつくってもらえたらと思います。
実際、リノベーション後の入居状況は安定していると聞いています。この建物のようなプレハブのアパートは、各地にも多く存在し、空室問題などが表面化していますが、より個性的な「地域にあったデザイン」によってリノベーションすることで、地域の人たちの生活の場にすることができると思います。再生のひとつのかたちとして、ヒントになれば幸いです。
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