過重労働が常態化しているといわれる医師の勤務状況の実態はどのようなものなのでしょうか。全国の医師に聞いたところ、約4割の医師が「燃え尽き症候群(バーンアウト:今まで真摯に仕事に取り組んできた人が、つらい仕事が原因で精神面・身体面でのストレスを断続的に感じることで、何かをする熱意や意欲を失い、疲れ果ててしまった状態)になったことがある」と回答しました。また、燃え尽き症候群の原因は「業務量の多さ」「長時間労働」などに回答が集まったそうです。
株式会社エムステージが「医師の燃え尽き症候群(バーンアウト)についてのアンケート」として2022年8月に実施した調査で、医師転職求人サイト『Dr.転職なび』、医師アルバイト求人サイト『Dr.アルなび』に登録する医師584人から回答を得たといいます。
同調査によると、42%の医師が「燃え尽き症候群(バーンアウト)と思われる状態になったことがある」と回答。また、「燃え尽き症候群になったことがある」と回答した243人の医師に「燃え尽き症候群になったタイミングやきっかけ」を聞いたところ、「専門医の取得後」「初期研修時」(いずれも20%)、「後期研修時」(16%)と続きました。なお、「新型コロナの感染拡大」と回答した医師も10%いたといいます。
さらに、「燃え尽き症候群になった原因」については、「業務量の多さ」(161件)、「長時間労働」(139件)、「十分な休日を確保できない」(133件)といった回答が上位に並びました。なお、具体的にどのような出来事があったかについては、以下のようなコメントが寄せられたそうです。
【多忙・長時間労働】
▽激務の病院で残業200時間/月を越えるような環境で頑張っていたが、1年半ほど経過した時点で心身ともに疲れ果ててしまった。
▽とにかく忙しかった。家にいるのは8時間、当直も月10回。そこそこ仕事が出来たので、仕事が出来ない数人の同期の仕事をどんどん回されたのが1番きつかった。
▽1週間で7時間しか寝ていない仕事が続き、救命できてもうれしいとは思えなかったし、まるで余命を即座に見据えることができるベルトコンベアーの上を患者さまが流されてくるように思えた。
▽繁忙過ぎて病院で寝泊まりするようになり、全てがどうでもよくなり、何があっても驚かなくなった。
【当直・オンコール】
▽当直月8回できつかったです。
▽当直が増えた後、起き上がれなくなった。
▽月28日くらいオンコール。平均2、3回呼ばれる。下手すりゃ徹夜という状況が続いた。
▽救急医療強化のために2人態勢で365日自宅待機を強いられた。
【研修医時代】
▽研修医一年目なんて休みは全くなかった。夜中に家にいると輸血を外してくれとかコールが来たりした。あほくさくなって一週間逃避旅行した。あの時のトップには感謝している。
▽初期研修半年で先輩から厳しく指導され、初めて担当したガン末期の患者さんがお亡くなりになった時に、もうすべての役目が終わったと思い自殺しようとした。
▽厳しい指導のおかげで医師としてはいろいろ学べたが、自宅にいる時間がほとんどなく、いても妻と会話できる状態でもなく、家庭を大事にできなかったことを今でも後悔している。
▽研修医時代の頃ですが、時間外労働が長く、今思うと軽い抑うつ状態だったと思います。半年ほど休職して、フリーで健診や簡単な診療などをやらせていただきました。その経験が意外にも今となったら、役立っています。ただ、もう二度と経験したくはないですし、それからは、そうならないよう比較的、自由にやらせてもらっています。
【専門医取得時】
▽NICU勤務で当直でも泊まり、当直じゃなくても遅くまで病棟にいて専門医試験の準備や勉強もして、それが無事に終わった時に色々な事がどうでもよくなった。
▽専門医取得後に、条件の悪い外勤先を一方的に教授から押し付けられ、教育業務とあいまって、やってもやっても誰も助けてくれず、疲れ果てた。
▽専門医、指導医資格をほぼ取得して、もう充分と思った。
【業務過多】
▽学会準備や後輩の指導など仕事が重なった。
▽学位取得後。結構苦労したので、しばらくやる気が起きなかった。
▽仕事では臨床、研究の両立、プライベートでは出産、子育てが重なり、院の卒論を論文化すると燃え尽きてしまい、何も集中できない時期があった。
▽通常業務に加えて院の仕事が重なり、1か月のうち丸1日休みの日が1日もなくなった。特に院の仕事は無休なこともあり、教える相手の都合に合わせて深夜に出向く必要などもあったため、対応がどんどん雑になってしまった。
【新型コロナ対応】
▽土曜日の一人外来にコロナ患者が集中。
▽コロナ患者が増え、業務多忙となるも手当てなどつかず安月給のまま。
▽患者家族の対応と、クラスター対応で疲れてしまった。
▽感染した。もう嫌だと思った。
【人間関係】
▽担当入院患者に罵られ診療・医療の意思が無くなった。
▽主治医として重症患者の診療が続いた。看護師の心ない言葉が最終的に引き金となった。
▽自分の持つ全ての気力・体力・誠実に仕事をしたいという気持ちを持ってしても、上司同士の派閥争いに巻き込まれストレスの吐口にされたり、看護師さんからの集団いじめに合い、もうほんの少しも頑張れなくなった。それでも患者さんが途切れる事はないので、一人でゆっくり泣く時間さえ取れず、精神的におかしくなってしまった。
【心身の不調】
▽食事をとると下痢をしてしまい、食事がとれない。不眠など。
▽働く目的がよく分からなくなってしまった。
▽物事を深く考えられなくなった。
▽うつになった。
▽プライベートが破綻した。
続いて、「燃え尽き症候群になった時にどのような行動をしましたか」と聞いたところ、「何も対応せず、そのまま勤務を続けた/続けている」(102件)が最も多い回答となった一方で、2番目に多い回答は「退職し、別の勤務先へ転職した」(88件)となり、行動を起こした医師の中では、退職・転職を選んだ医師が多くいることが分かりました。
次に、「勤務先で実施されている医師のストレスケア・メンタルケアの施策」を聞いたところ、「実施されているものは特にない・知らない」(245件)、「定期的なストレスチェックテスト」(217件)、「人事や労務などによる相談窓口」(121件)といった回答が上位に並びました。
最後に、医師の燃え尽き症候群(バーンアウト)については、以下のようなコメントが寄せられたそうです。
【誰でもなりうる】
▽先輩や後輩、知り合いだけでも何人も該当者を知っています。失踪した人も何人かいます。普段から抜きどころがないとそうなりやすいようで、特に人付き合いが少ない人に多い印象です。
▽かからない人間だと思っていたが、誰でもなりうるものだと実感した。
▽いつ自分に起こるか、不安なことはあります。2日連続でオンコールや当直に入らないようにしています。
▽頑張りすぎると燃え尽きることを経験してから、なるべく定時帰宅を心がけ、規則正しいパターンで仕事をするようにしている。
【しっかり休む】
▽有給休暇をしっかり取る。オンオフを切り替える。
▽無理に頑張らずに、しっかり休む。
▽休日は、病院に行かないようにしています。
▽休みの日は必ず設ける。主治医制が悪いとは言わないが、時間外は別の担当が必ず対応するようにすべき。医師の自己犠牲に頼らないようにすべき。
【リフレッシュ】
▽趣味を大切に。
▽おいしい料理を食べたり、お酒を楽しむ。
▽コロナ前は海外旅行に一年に一度行っていました。病院から絶対電話ないし、呼ばれないから。国内は電話がかかってくる。気持ちがリセットされる。
▽卓球してます。身体を動かしてストレス発散!
【自分の体調に敏感になる】
▽不調な兆候を意識する。
▽バーンアウトに近い状態になることはある。個人的には、曜日の感覚がなくなってくれば心配な状況に近いので、無理をしてでも休日の時間をとるようにしている。
▽他人から指摘されないと分かりにくい時もある。睡眠時間など自覚しやすい指標を意識したい。
▽睡眠はしっかりとるようにする。寝不足だとろくな事を考えない。
【心の持ち方】
▽最悪もうダメだと思ったらいつでも辞められると思って、日々頑張っています。
▽どの職種でもあり得ることと認識している。無理だと気づいたらペースを落とすように意識することが大事。特に若いうちは職場で利用されやすいので、良い人にならないよう気をつけることです。
▽我慢ならない時は転職をする。
【組織制度】
▽仮にバーンアウトしたとしても、具体的な相談窓口が設けられていたとしても、相談しやすい環境とはとても言えないと思います。
▽自分を自分で守るための法的制度や勤務先の就業規則などを知っておく。産業医がいるなら相談する。勤務先以外にも相談できる専門家を確保しておく。
▽最近は、私の部署では職員がバーンアウトするまで追い込まれる前に周辺の者が気付き、サポートする体制ができつつあるように思います。すべては職場各部署の管理者の意識によるところが大きいように思います。はた目から見てまだまだ駄目と思われる部署も多くあります。
▽医師に関してはバーンアウトを予防するために個人でできることはそれほど多くはないと思います。医師になるような人間は使命感でオーバーワークしがちになってしまうので自分では前兆に気が付きにくいと思います。ですので、国や厚労省、組織(病院)がバーンアウトに対して意識的に取り組まなければ、解決しないと思います。
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調査を行なった同社は「使命感を持ってひたむきに仕事へ取り組む人、自分以外の人のために頑張り過ぎる人ほど、燃え尽き症候群になりやすい傾向があります。命と向き合う医療従事者は燃え尽き症候群になりやすい職業と言われており、さらに、医療人材不足等による長時間労働や過重労働といった医療機関の環境課題も、燃え尽き症候群を引き起こす要因となっています」と説明。
一方で「2024年からは医師の働き方改革の施行が予定されており、長時間労働の削減などが期待されていますが、医師に対するドクターストップ等の判断は、労働衛生・法令等の豊富な知識が求められるものでもありますので、高い専門性を持った産業医の選任が求められます。また、長時間労働だけでなく、ストレスを緩和するためのケアの充実も重要な取り組みとなります。医療機関における働き方改革・健康経営の取り組みが、今、求められています」とも述べています。
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【出典】
▽株式会社エムステージ