パンツ30枚買って来い!研修医時代の厳しい日々が「心」を育てる

町医者の医療・健康コラム

谷光 利昭 谷光 利昭
 聴診器を使う医師の「心」が大切です
 聴診器を使う医師の「心」が大切です

 「パンツ30枚買ってきて!」

 医師になって、先輩医師から言われた初めての衝撃的な言葉でした。なぜ?パンツ30枚?厳しい病院であることを理解はしていましたが、ここまで帰宅できないとは…。

 話を少し戻しましょう。私が三井記念病院(東京)を受験することにしたのは、我が大阪医科大学出身の須磨久善先生が特別講義に来られたからです。須磨先生は世界で初めて、右胃大網動脈を心臓の冠動脈につなぎ、難しいバイパス手術をいとも簡単に成功させてこられた先生です。そのほかにも拍動している心臓を止めずに手術をしたり、バチスタ手術(拡張型心筋症の治療は以前は心臓移植しか方法がなかったのですが、その病を移植なしに治療する手術)を日本に最初に導入されたりと功績を挙げればきりのない、スーパードクターなのです。

 「医龍」などドラマの主人公のモデルにもなられていますし、監修もされています。残念ながら私が三井記念病院に就職したときには外国におられ、手術は一度しか見たことはありませんが、髪の毛よりも細い糸を駆使して皮膚を縫うように、そして皮膚を縫合するよりも早く、正確に、美しく1ミリ以下の血管を縫うさまは表現の仕様がありません。その素晴らしい手術を拝見して、私は心臓外科医になることを諦めてしまったくらいです。天才が努力をしてようやく初めて踏み入れていい領域のような印象がありました。

 学生も参加できる懇親会で須磨先生の近くに同席させて頂き、どうすれば先生の下で研修ができるのですか?と聞いたことを昨日のように覚えています。須磨先生は「そんなの簡単だよ。試験を受けて通ればいいんだよ!」と…。当時の成績でエリート集団が集まる三井記念病院に合格するなんて、私の周囲では誰も想像できませんでした。諦めるか…悩みました。それから、2年近くが経ち、友人と進路の話をしていて、私が三井記念病院を受験するという話をすると「絶対に無理やで。カンファレンスは英語やし、お前の学力では無理や!大阪の恥をさらしに行くだけや!」と散々なアドバイスを受けましたが、東京見物もかねて受験しました。何故、私が合格したかは今でも母校の七不思議のひとつに取り上げられています。(合格させて頂きました先生に深謝です)

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