口腔ケアをおろそかにしている人は胃がんや食道がんの発症率が高まるとの報告があります。特に、関連性が高いのが歯茎や舌、顎にできる口腔がん。データでは圧倒的に男性の罹患率が高いそうです。原因と対策は?吉本興業所属の歯科医芸人”パンヂー陳”こと陳明裕さんが解説してくれました。(聞き手・山本 智行)
--お盆休みは何をされてたんですか?
陳明裕(以下陳):お仕事といいたいところですが、無料お試し配信で唐沢寿明さんが財前五郎を演じた「白い巨塔」を観てました。
--僕らの世代だとやっぱり財前教授は田宮二郎さん。渋みがあった。
陳:当時、僕は歯学部の学生だったんですが、歯学部は白い巨塔的な世界がなくて良かったと思いながら観ていたんです。そしたら途中で主役の田宮さんが散弾銃で自殺。あれは衝撃でした。何だか、ご自身の人生がドラマよりドラマチックな感じがして。
ところで、演じる役者によって財前五郎のがんの設定が変わっていたのをご存知ですか?田宮さんでは胃の噴門部のがん、唐沢さんでは食道がんで、最新の岡田准一さんバージョンでは膵臓ガンと時代に合わせて、その時々の手術が難しい臓器のがんに変えてるんです。
--言われてみれば、そうですね。じゃあ、佐藤慶さんはと言いたいところですが、そろそろ本題に入ってください。
陳:ちなみに財前教授も罹った胃がんや食道がんは歯磨きである程度予防できるそうです。
--陳さんは、ほんま何でも歯に結びつけたがりますな~。
陳:実は僕も受け売りなんですが「舞鶴赤十字病院」総合診療科部長、榊原孝至先生によりますと「歯周病の既往歴のある人は、胃がんで52%、食道がんで43%の発症リスクが上昇する」という報告や「歯周病原菌の一種であるジンジバリス菌は胃がんの原因になりえる内因性ニトロソアミンを産生することが知られているが、胃がん患者ではこの菌の割合が高い」という報告があるのだそうです。
ですのできっと、財前教授は教授選や医療訴訟への対応に忙殺されて、歯磨きがおろそかになっていたのかも知れませんね。
--なんだか無理やりこじつけてませんか?
陳:口腔がんとの関連はもっと明白です。歯茎や舌、顎にできるがんは罹患数は全部のがんの2%くらいを締めていて、年間2万人以上。人口の高齢化に伴い、増加傾向にあります。がんは1981年以降、日本人の死亡原因第1位の病気で毎年36万人近くの方が亡くなっています。その中で、部位別では第12位と言われています。
--って、言われても、それが多いんか、少ないんかよう分かりませんけど、どうやったら発見できますか?
陳: ほとんどの場合、自覚症状がありませんので、初期段階では口内炎のようにしか見えないんです。自分でわかるくらいになった時には、既にかなり進行してしまっている場合が多いんです。中でも歯磨きがおろそかで、お酒をたしなんで、タバコを吸う男性が特にリスクが高いといわれています。
--ジェンダーレスが叫ばれてる時代に…。
陳:残念ながら日本社会と同じで、病気もジェンダーレスの実現は難しいようで、口腔・咽頭がんの人口10万人対の年齢調整罹患率は男性14.3、女性5.2と男性が圧倒的に多い状況です。
--タバコと肺がんなら結びつきやすいですが、口のがんにも関係あるんですか?
陳:はい。喫煙者の口腔がんの発生率は、タバコを吸わない人の7倍も高く、死亡率にいたっては4倍といわれています。これはタバコに含まれるニコチンやタールなどの発がん関連物質や、熱の影響が指摘されています。しかも、飲酒時の喫煙が一番リスクが高いんです。タバコに含まれてる約70種類とも言われる発がん性物質の多くがアルコールで溶解されて、直接口腔粘膜に作用するからです。
あとは、お口の中の環境では虫歯などで欠けて尖った歯や、合わない入れ歯やブリッジ等が粘膜をいつも傷つけたりしている状態が続くのもリスクファクターです。
--口腔ケアは大切、ということですね。
陳:実際、大学に勤めていた頃、歯に丁度、いつも当たる場所に舌がんができているといった光景を見るのは、決して珍しくはなかったです。口の中は直接見ることができるので口腔がんは他の臓器のがんと違って、本来は早期発見しやすいはず。ですので、歯科検診や早めの受診が大切なんです。
だから、山本さんも悪い歯があったら早めにうちに治しに来てください。サービスになるかどうかは分かりませんけど、ご希望なら、ちょっと大きめに削ってさしあげます。