「一瞬でいいから触ってみたい」「もっともっと近くで見たい」—。
叶わぬことと分かっていても動物園で動物を見ながらこんな“夢”を抱く人は結構いるはず。その願いに応え、本当に本物の動物の「毛」を入れたカプセルトイを愛媛県立とべ動物園が発売しました。その名もずばり「本物ガチャ」。SNSでは「欲しい欲しい!」「他の園でもやってほしい」と盛り上がりを見せています。動物園なので材料は豊富とは言え、販売することにしたワケは? 担当した飼育員の濱田純基(じゅんき)さんに取材すると、コロナ禍の苦境あってこそのチャレンジ、動物の命を感じてほしいと願う熱い想いがありました。
「動物の抜け毛が欲しい」声、実はあるある
——「本物ガチャ」おもしろいです!
「第1弾として300個、シークレット含め計6種類を今月初めから1つ500円で発売しました。シークレット以外はキリン、ラマ、フラコブラクダ、ホッキョクグマ、オランウータンです。開始2日間で100個以上売れ、猛暑が続く時期の平日にしては予想外でした」
「小さなガラス瓶に毛を入れて、コルクで栓をして、それぞれの動物の毛に関する解説を添えてあります。興味を持っていただけたことはとても嬉しいです」
——企画のきっかけは?
「コロナ禍で入園者数が落ち込み、経営状況が厳しくなる中、新たなチャレンジをしようと。昨年夏、飼育担当の職員や獣医師で有志のプロジェクトチームを立ち上げ、オリジナル商品の企画を始めました。動物の抜け毛を有効利用できないかという案は当初からありました。動物をこよなく愛してくださる、いわゆる動物マニアの方たちから『抜け毛が欲しい』と言われることは実はよくあるんです。直に見て触ることができ、生きた教材として動物への理解をより深めていただけるのでは、と考えました」
フタコブラクダの洗浄は大変!
——作業は大変でしたか?
「昨年末から担当飼育員に抜け落ちた毛などを回収してもらい、流水と中性洗剤で汚れやゴミ、皮脂を取り除いた後、滅菌処理を行いました。大変だったのはフタコブラクダですね。換毛期にたくさん抜けるのですが、ふわふわの毛はフェルト状に固まっていたり、細かなゴミが絡まっていたりするので洗浄にはとても苦労しました」
——どの動物の毛を使うか、選び方は?
「十分な量の抜け毛を集めることができる種で、小瓶に入る大きさであること、そして『種の保存法』で抜け毛が販売の規制対象になっていない、という条件で選定しました」
——規制とは?
「動物園の動物の多くは絶滅の危機に瀕している希少動物で、ワシントン条約と種の保存法で輸出入や移動、販売、譲渡が規制対象となっています。ワシントン条約は国際的な国家間の取り決めですので、主に輸出入に関して、国内での移動や販売、譲渡は種の保存法で規制されています」
「オランウータンはワシントン条約付属書Ⅰに掲載され、種の保存法では国際希少野生動植物種として保護されています。ただ国内では生体の移動は規制対象ですが、毛については対象外です。規制は全種一律ではなく、種ごとに体の器官や加工品について細かく決められています」
「ホッキョクグマは付属書Ⅱであり、国際希少野生動植物種では国内での販売には規制がありません。ライオンやトラに関しては抜け毛、爪などすべて国内での規制対象となっているため、販売や譲渡はできません」
ガチャガチャの毛は動物たちからのプレゼント
約150種を飼育する同園。人気動物も多くいますが、標本としての活用方法も考慮し今回は個体の区別はしませんでした。次回の具体案は未定とのことですが、「予想以上に大きな反響がありましたので、振り返り、今後に生かしていきたい」と濱田さんは話します。
「ガチャガチャをして何が出るか分からないワクワク感を楽しんでもらいたいです。推しの動物や人気動物だけに偏ることなく、いろいろな動物に興味を持つきっかけにしていただければと。売り上げは動物福祉の向上にも役立てます。本物ガチャの毛は、動物たちからみなさんへのプレゼントです。宝物として大切にしてもらいたいと思います」