味噌汁を始めとする家庭料理に欠かせない出汁。ふだんは手軽な顆粒出汁などを使う人も多いかと思うが、良質な昆布や煮干し、かつおぶしなどを使ってとった出汁はやっぱりしみじみおいしいもの。そこで必ず出るのが「だしがら」であるが、ふりかけなどに活用すればいいんだろうなぁ……と思いつつ、私などはついつい面倒で捨ててしまっていた。ところが、7月末に発売された『捨てないレシピ だしがらから考える食の未来』(ぴあ株式会社)によれば、なんと昆布や煮干しの栄養素のうち、約9割は「だしがら」に残っているとのこと。
著者は、大阪の老舗「こんぶ土居」の四代目・土居純一さん。同店は北海道・旧南茅部町「川汲浜」などで獲れる真昆布を中心に扱い、大阪の出汁文化を100年以上、下支えしてきた名店。大阪名物といえば「たこ焼き」「お好み焼き」といった濃いソース味を思い浮かべる人が多いと思うが、土居さんによれば、「かつては、大阪名物といえば昆布だったんですよ」とのことで驚き。本来、大阪の食文化はコテコテではなく、むしろ淡く上品な味わいが特徴で、背景には昆布が深く関わっているという。関西のうどん出汁を思い浮かべてみると、わかりやすいのかもしれない。
大阪と昆布の関係性は、江戸時代に遡る。当時、海上交通がさかんになり、北海道の良質な昆布が、北前船により「天下の台所」大阪に集められたことから独自の食文化が花開いたのだそうだ。「こんぶ土居」はそんな忘れ去られつつある昆布文化を、地元の人はもちろん全国に発信すべく、今年7月、店舗のほど近くに「大阪昆布ミュージアム」を開館した。
土居さんはある日、文部科学省が提供する「食品成分データベース」を参照したところ、昆布に含まれるカルシム、ミネラル、食物繊維といったよう要素のほとんどが、「昆布出汁」には含まれていないことを知り驚愕したという。鉄や亜鉛にいたっては、ほぼそっくり「だしがら」のほうに残っており、これはもう「だしがら」ではなく、むしろ「だしがら」のほうが本体!? 本書では昆布以外の「煮干し」などのデータも紹介されているので、ぜひ参照してみてほしい。
そこで、土居さんは「だしがら」を積極的に活用することが、将来的な食糧危機にそなえることにもつながり、「フードロス削減」という観点からも有効と考えて本書を執筆。また、前代未聞の「だしがらレシピ集」として、「昆布チップス」「クーブイリチー(沖縄のだしがら料理)」「昆布粉バター」「昆布ペペロンチーノ」など、こんな使い方があったのか!と目からウロコのレシピも豊富に紹介している。また、だしがらはある程度、量がたまるまで冷凍しておく人が多いと思うが、出汁をとったあとの昆布を、再び「干す」という驚きの保存方法をも伝授。
さらに、「国内での出汁文化は手軽なうま味調味料などにとって変わられ、衰退の一途をたどっていますが、フランスなど海外の一流料理人から、出汁が脚光を浴びています。『DASHI(だし)』や『UMAMI(うまみ)』が海外の辞書にふつうに載っているくらいなんです」と土居さん。
日本の山椒や梅がフランス料理界で大人気というのは聞いたことがあるし、「Kawaii(かわいい)」や「「MOTTAINAI(もったいない)が世界の共通語になっているのは知っていたけれど、まさか出汁がそんなことになっていたとは……。 しかし、日本の軟水は出汁をとるのに適しているのに対し、フランスなど海外の硬水は出汁がとりにくいと聞いたことがあるが、そのあたりはどうしているのだろう?
「今は硬水を軟水に変える機械もありますし、市販のミネラルウォーターのなかでも、たとえば『ボルヴィック』といった軟水を使うようにするなど少し工夫するだけで海外でもおいしい出汁がとれます」とのこと。
また、日本の軟水は口当たりがよくおいしい反面、硬水に比べると、ミネラル不足になりがちという側面も。土居さんによれば、「そこで昆布や煮干しといった海のものを活用することで、日本人は経験的にミネラル不足を補ってきたのではないでしょうか」とのこと。つまり、出汁のみならず、「だしがら」を積極的に取り入れることが、栄養的にも理にかなっている!というわけなのだ。
このところの猛暑で、しばらく味噌汁を飲んでいないという人も多いのでは? もう少し涼しくなったら、改めておいしい出汁と、その副産物である「だしがら」活用生活を始めてみるのもいいかもしれない。