街中で倒れている人を発見し、救助にあたる。映画やドラマのなかでよくみられるシーンですが、現実に起こりうる可能性は十分にあります。しかし、そのような場面に遭遇した場合、自信を持って対処できるという方は少ないかもしれません。緊急時に落ち着いて対応するためにも、正しい対処方法や注意点、さらにAEDを使用する際のポイントについて、吉田病院付属脳血管研究所(神戸市兵庫区)の吉田泰久院長に詳しく聞きました。
――街中で人が倒れていた場合、どのように対処すればよいのでしょうか?
最も処置を急がなければいけないのは、心臓が止まっていた場合です。ただ、心臓が動いている方に心臓マッサージをしてはいけません。そのため、まずは倒れている方の姿勢を起こし、「大丈夫ですか」などの声かけを行います。返事があった場合には、救急車を呼ぶなどの対処を行いましょう。
――返事がない場合には、どうすべきなのでしょうか?
返事や反応がなく意識を失っている場合は、心臓が止まっている可能性もあります。そういった際は、まず最初に救急車を呼んでください。そして現在、心臓が止まっているときの対処法として最も有効だといわれているのは、身体に自動的に電子信号を送ることのできるAEDです。ですので、救急車を呼んだあと、周囲の方にAEDを持ってきてもらえるよう頼みましょう。
――1人で対処しようとせず、協力者をつくることが大切なのですね。
そうですね。そして次に行うべきなのが、呼吸をしているかどうかの確認です。呼吸をしていないということは、かなり危険な状態であることを指しますので、心臓マッサージ、またはAEDをただちに処置する必要があります。
――AEDを触った経験のない方は、「自身の操作で症状を悪化させてしまったらどうしよう」と考えてしまうかもしれません。初めて使用する場合にも、状態を悪化させてしまうということはないのでしょうか?
AEDの指示にある通り、パッドを正しい位置に貼りさえすれば、あとは機械が自動的に処置を行なってくれますので、安心いただければと思います。
――人工呼吸とAED、どちらがより効果的なのでしょうか?
現在は、人工呼吸よりもAEDの使用が推奨されています。というのも、心臓マッサージを行うことで胸が圧迫され、ある程度の呼吸が通るといわれているんです。AEDも広く普及し、今では多くの場所で設置されていますので、まずはAEDを探していただければと思います。
――脳卒中で倒れた方は動かさない方がいいと聞くのですが、本当なのですか?
これは、ずいぶん昔にいわれていた通説なんです。もちろん、激しく動かしてはいけないのですが、原則としてすぐに救急搬送することが推奨されています。ただし、くも膜下出血を発症している場合、血圧が上昇すると再び血管が破裂してしまう恐れがありますので、身体を動かす場合にはできるだけそっと動かす必要があります。
――動かしてはいけないのではなく、刺激のないように動かす必要があるのですね。
ほかにも、身体に麻痺が出ていた場合にも注意点があります。脳卒中を発症した際、嘔吐してしまう方が多くいらっしゃるのですが、この場合、吐物を誤嚥(ごえん)してしまう危険性があります。さらに、身体が麻痺している際、実はのども麻痺しており、麻痺している側を下にしていると吐物を誤嚥してしまう危険性が非常に高まるんです。つまり、誤嚥を防ぐためにも、身体が麻痺している場合には、麻痺している側を上にする必要があります。
――救急車が来た際、隊員の方にはどのような情報をお伝えすべきなのでしょうか?
救急隊員の方が来るまでにみられた症状を、詳しく伝えていただければ問題ありません。
◆吉田泰久 社会医療法人榮昌会 吉田病院 / 理事長兼院長 /
1952年12月の開設以来70年近くにわたり、神戸市の救急医療のなかでも脳卒中患者の診療を主に担い、急性期から回復期、在宅まで一貫した脳卒中治療を提供している。
診療科は、神経外科、脳神経内科、内科、循環器内科、リハビリテーション科