新国民的行事、それは「夏至カレー」 前半の自分を労い、スパイス注入で後半の頑張りも誓う 

柿木 拓洋 柿木 拓洋

「夏至の日はカレーを食べよう」

 こんなキャッチコピーで、夏至にカレーを食べる習慣を広めようとする運動があるのはご存じだろうか。京都市の女性がたった1人で始めた活動で、一時は大手企業を巻き込んだ消費イベントに発展しかけた。どうして、夏至にカレーなのか。

 「夏至カレー」の創始者は、京都市伏見区のフリーカメラマン中田絢子さん(40)。大の夏好きで、仕事が終わった後の午後6~7時でも外が明るい季節は心が無性に弾むという。だが、夏本番の7、8月は、日没が徐々に早くなる時期。「1年で日が最も長い夏至を起点にすれば、もっと長く夏を楽しめるのでは」。こんな着想が出発点だった。

 年末の冬至にはカボチャを食べたり、風呂にユズを浮かべたりする習慣が全国的に定着する一方、夏至の日の行事は少ない。故郷の高知県で働いていた2007年、好きなカレーを夏至の日に食べることを「マイルール」に決め、毎年欠かさずに続けた。

 1人だけの行事だった夏至カレーを広め始めたのは、京都市に移り住んだ14年から。「夏至だからカレー食べた」。ツイッターでの何気ないつぶやきに、「今日はカレーにしました」とリプライ(返事)があった。「一体どれくらい広がるんだろう」。見ず知らずの人への波及が、全国運動化の野望に火を付けた。

 16年にはデザイナーに依頼し、公式ポスターを初めて作成。翌17年には参加者がユニホームとして着るTシャツを作り、インターネットで販売した。飲食業の知人と京都市内でカレーイベントを催すと、SNSの告知だけで100人近くが来場した。

 自ら「夏至カレー大使」と名乗り、春ごろからSNSでカレーにまつわる発信を繰り返した。18年の夏至には「夏至カレー」がツイッターのトレンドで6位まで上昇。広告大手の電通から「一緒にやりませんか」とオファーを受け、19年に電通と共同で夏至カレーの商標を取得した。この年、スーパー大手のイトーヨーカドーは東京都内の1店舗でカレー商品の売り場を特設し、テストマーケティングに乗り出した。

 「土用の丑(うし)のウナギのように、全国の人が夏至にカレーを食べてほしい」。夢に見た国民的行事化への大きな一歩は、20年に大流行した新型コロナウイルス感染症にくじかれた。スーパーや百貨店は人が集まるセールなどを中止し、本格展開となるはずだった夏至カレーキャンペーンは見送られた。

 コロナ禍は社会を一変させ、飲食店は次々に臨時休業した。20年の夏至に中田さんは営業を続ける大阪市内の店で静かにカレーを食べた。昨年も大々的なイベントは難しく、夏至当日は伏見区のカフェで自らキーマカレーを作って知人らに振る舞うささやかな催しにとどめた。

 しかしこの間、夏至カレーのTシャツを毎年作り続け、京都や大阪などでは協力店が徐々に拡大。SNSでは全国の賛同者が夏至カレーのイラストや短編小説、俳句などを公開し、「二次創作」も広がりをみせた。「全世代に好かれるカレーは多様で、奥が深い。夏至は1年の折り返し。この日にスパイスを注入し、後半も頑張ろうというメッセージもあるんです」と中田さん。コロナの収束後は運動を再び活発化させると誓う。

 今年の夏至は6月21日。国立天文台によると、日の出から日の入りまでは東京や大阪で14時間30分前後という。皆さんは、どんなカレーを食べますか。

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