人々が暮らす街の満足度を数値化する「街の住みここちランキング〈関西版〉」に今春、「子育て世帯版」が登場した。既婚者で子どもがいる世帯の回答に限定した統計だ。子どもを持つお母さんやお父さんの評価は、高齢者や単身者も含む全世代版のランキングとは微妙に違う。さて、その結果は―。
大東建託(東京)が実施し、初めて公表された「子育て世帯の街(自治体)の住みここちランキング」の関西版でトップだったのは、兵庫県芦屋市だった。8つの評価項目のうち、「イメージ」で1位に。「高級住宅街」の印象が広く定着する街のブランドは、自他ともに認める結果となった。「静かさ・治安」も3位、「自然・観光」も5位と上位に入り、総合評点は77.7。地元の人も「公園が多いので子育てしやすい」(31歳・主婦)、「道路や街の外観が清潔に保たれている」(34歳・事務職女性)と評価する。
2位は北摂エリアの大阪府箕面市。「行政サービス」が1位、「静かさ・治安」が2位、「イメージ」も3位と高く、評点は77.5と芦屋市を0.2ポイント下回る僅差だった。「早期療育に力を入れているので、発達障害児の相談もしやすい」(33歳・主婦)、「同世代の人が近所に多く、子育てがしやすい」(35歳・主婦)と満足の声が多い。
3位は大阪都心に位置する大阪市西区。約5平方キロメートルの小さな街に10万人以上が住み、京セラドーム大阪などがある。トップに立った項目は無いものの、「生活利便性」と「親しみやすさ」が2位、「交通利便性」が3位だった。子育て世帯以外を含めた全世代版では総合トップの大阪市天王寺区、3位の大阪市北区、7位の大阪市中央区を下回る11位だったが、「人通りが多すぎず少なすぎず安心できる」(28歳・事務職女性)、「繁華街が近いにもかかわらず、ファミリー層が多い」(34歳・主婦)といった点などが支持されたようだ。
4位は瀬戸内海に面した兵庫県加古郡播磨町。明石市や加古川市と隣接する播磨町は県内で最も狭い自治体として知られ、郡部でトップ10位に入ったのは唯一となった。「物価・家賃」が2位に入り、全世代版での42位から急上昇した。
全世代の評価がトップだった大阪市天王寺区は5位。「生活利便性」4位、「交通利便性」2位、「行政サービス」2位など、多くの項目で上位を占めたが、「静かさ・治安」が76位、「物価・家賃」がランク外となったのが響いた。
6位は大阪市中央区、7位は大阪市北区、8位は神戸市中央区、9位は兵庫県西宮市、10位は兵庫県伊丹市。
京都府のトップは、11位にランクインした相楽郡精華町。企業の研究拠点が集積する関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)の中心地で、「静かさ・治安」と「物価・家賃」の項目がともに1位だった。奈良県は香芝市が18位、滋賀県は草津市が26位でそれぞれ県内トップだった。
調査を実施した大東建託賃貸未来研究所の宗健所長は「公園、図書館、塾といった子育てに必要な都市機能の充実に加え、他人との『適度な距離感』を保てることが、子育て世帯の住みやすさにつながっている」と指摘する。
今回の調査は、2019~21年の3年分の回答を累積して集計した「街の住みここちランキング2021〈関西版〉」のうち、関西2府4県に居住し、子どもがいる20~50歳の既婚の2万8578人の回答を抽出して分析した。回答者が50人以上いた自治体を対象に集計している。
企業や民間調査機関が行う住環境や街のブランドといったランキングは分かりやすさもあり、注目されやすい。だが、順位はあくまで他の自治体と比べた相対評価だ。人口流出や少子化対策は多くの自治体に共通する悩みで、首長や地方議員らは「子育て環境の向上」を訴える。今回の調査は評価の一断面と捉え、街への愛着を深める地道な取り組みが住民の絶対評価を高める近道かもしれない。