最大震度4以上を観測した地震は3月に11回(気象庁まとめ)あり、4月に入ってからも東北や北陸で震度4が相次いでいます。大きな揺れに襲われた後、「浴槽に水をためなきゃ」と蛇口をひねった人も多いのではないでしょうか。でも、その水、何に使いますか?「地震が起きたら、お風呂に水をためるは、実はオススメできません」と指摘した国際災害レスキューナースの辻直美(@tobecoolnao)さんのツイートが注目を集めました。辻さんに聞きました。
1995年の阪神・淡路大震災発生時、記者の住んでいた神戸市中央区は震度6(一部は震度7)に見舞われました。アパートは一部損壊し、上下水道の復旧に相当期間を要しました。風呂には一般に150リットル前後の水をためられるため、「生活用水としてお風呂に水をためる」という行動を正しい地震対策と長く信じていました。
ー断水時のトイレや消火などに備え、浴槽に水をためることを推奨された経験があります
「阪神・淡路大震災発生後の一時期はそうだったかもしれませんが、現在の防災の常識に照らすと古いもので誤りです。国土交通省は災害時の断水時、くみ水をトイレに流さないよう呼び掛けています。ですが、国や自治体のHPでは今でもためるよう勧める情報が掲載されているため、思い込んでいる人も少なくなりません」
ーいざというときに水があると役立つと思うのですが…
「まず何に使いますか? 残り湯は論外ですが、ためた水を飲もうとは思わないですよね。食器洗浄や体をふいたりするにしても浴槽にためた水は清潔とはいえません。煮沸するにしても貴重なガスボンベの燃料を消費してしまいます」
ートイレにはなぜ流してはいけないのでしょうか
「国土交通省は災害時の断水時、くみ水をトイレに流さないよう呼び掛けています。その理由としては、(1)くみおきの水を流すだけではきちんと流しきれない(2)見えないところで配管が破損している場合、汚水がそこから漏れる(3)流しきれない汚物が途中でたまるとメタンガスが発生して爆発する可能性があるーなどです。東日本大震災の被災地の集合住宅では、上の階の汚水が階下の部屋にあふれたという事例も報告されています」
ーその代わりとなるのが非常用の簡易トイレですね
「災害時、上下水道が使えないからといって排泄を我慢しようと、水分補給を控えることは脱水症状を招きかねません。携帯トイレや簡易トイレなどの災害トイレを備えてください」
ーどうしても必要な水はどう確保すれば
「お風呂にためるのではなく、別の方法で水をためてください。浴槽にためられる水は140~160リットルですが、1個30リットルのウォーターバッグなら5、6個で同量の水が貯水可能です。飲用や食用に使う水はペットボトルの水を多めに買い置きしておくと安心です」
災害への備えや被災時の対応方法は、不変のものもあれば時代とともにアップデートされるものもあります。例えば、自宅で調理中に地震が発生した時の取るべき対応として、かつては「ガスの火を消す」ことが求められましたが、現在は「ガスの火はそのままキッチンから離れる」ことが正解となります。これは、国が都市ガスを安全に使用するために、全戸にマイコンメーターの設置(自動遮断機能がついたメーター、プロパンガスも同様)を義務づけたためです。
辻さんは吹田市民病院の産婦人科などを経て聖路加国際病院に勤務し、国際災害レスキューナースに。災害派遣医療チーム(DMAT)や国境なき医師団で災害現場を経験。国内外の災害被災地で救護活動に携わった経験を踏まえ、防災関連の著書を多数出版しています。子育て講座を主催する「育母塾」の代表理事も務めています。
詳しい活動内容はこちら→https://lit.link/naosaigairescue
国道交通省の漫画「災害時のトイレ、どうする?」はこちら→https://www.mlit.go.jp/common/001180224.pdf