JR六甲道駅(兵庫県神戸市灘区)の3番のりばを眺めていると、ある文字が浮かび上がってきた。六甲道、六甲道、六甲道…。可動式ホーム柵(ホームドア)の支柱の内側に小さな駅名標がずらりと並び、名前を主張しているではないか。その数、1列に計33個。実はこれ、神戸や三ノ宮など県内のほかの駅では見られない珍しい光景だった。
ホームからの転落や電車との接触といった事故を防ぐために設けられるホームドア。JR西日本によると、六甲道駅は2014年12月に県内で初めて試行運用が始まった。当時、懸念されたのが、ホームドアの設置で車内から駅名標が見えにくくなってしまうのではないかということ。電車を降りる人が車内の座席に座っていても窓から見えるようにと、支柱の内側に小さな駅名標を貼ったという。
運用が始まってから分かったことがあるそうだ。「いつも利用している人は、なじみの風景で六甲道駅に到着したことが分かるみたいで…。ホームドアの駅名標はなくても大丈夫みたいでした」と広報担当者。その後、山陽新幹線の新神戸駅や在来線の三ノ宮、明石、神戸駅の県内4カ所でホームドアが整備されたが、駅名標は取り付けなかった。
では、どうして六甲道駅の駅名標は撤去しないのだろうか。聞くと、担当者は毅然とした態度できっぱり。「サービス低下につながるものでもないので、そのままにしています」
電車内でほかのことに没頭して…
ふと、苦い経験を思い出した。電車で遠出をしていた時のことだ。長旅にかこつけて、車内で音楽を聴いたり読書に没頭したりし、自分がどのあたりを走っているのかを忘れていた。目的駅の到着直前でキョロキョロと周りを見回して外の駅名標を懸命に探したが、間に合わずに乗り過ごしてしまった。
ホームドア内側の駅名標、意外とありがたいかも。