東日本大震災の発生から11年を迎えました。東日本大震災の後も、自然災害が発生した際には、災害時に命を落とす方は、高齢者が多いという現状は変わっていません。日本の総人口に占める65歳以上人口の割合が増加し進行している今、福祉防災の必要性を改めて考えたいと思います。
災害時に命を落とすのは高齢者が多い
2011年3月の東日本大震災では、被災地全体で亡くなった方のうち約6割が65歳以上の方であり(総務省消防庁「平成30年版消防白書」より)、2018年の平成30年7月豪雨においては、被害の大きかった岡山県倉敷市真備地区では、亡くなった方のうち約8割が70代以上の方でした(中央防災会議 防災対策実行会議「平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について」(報告)より)。そして、2020年の令和2年7月豪雨災害では、熊本県球磨村の高齢者施設「千寿園」で14名の高齢者が犠牲になりました。
これらの要因の一つに、一人で動く事が困難であったり、避難する体力がなかったりと、自力で避難することが出来なかったことなどが挙げられます。東日本大震災後も、自然災害が起こるたびに、犠牲になる割合が高いのは高齢者の方という現状は変わっていません。
球磨川水系は計13か所で氾濫・決壊し、約1,060ヘクタールが浸水(令和2年7月豪雨)
シニア世代の防災対策は超高齢社会における大きな課題
2020年10月現在、日本の65歳以上の人口は総人口の28.8%となっており、2065年には高齢化率は38.4%になり、約2.6人に1人が65歳以上、約3.9人に1人が75歳以上となる社会が到来すると推計されています(内閣府「令和3年版高齢社会白書」より)。
それと並行するように、地球温暖化による気温の上昇、それに伴う大気の水蒸気量の増加などにより、豪雨の発生率も増加しています。自然災害への備えの必要性がより高まっており、シニア世代の防災対策は超高齢社会の大きな課題になっています。
地域や福祉との繋がりが命をつなぐ
一人暮らしをしていたり、老々介護家庭などで自宅にこもりがちになり、近所とのつながりが弱い高齢者の方は、災害時に逃げ遅れる傾向にあります。
東日本大震災において、内閣府の避難に関する実態調査では、逃げるように伝えたのは、「家族・同居者」が約3割、「近所の人・友人」も同じく約3割、約2割が福祉関係者でした。
平成30年7月豪雨においても、「消防や警察、近所の人、家族や親族の呼びかけ」をきっかけとして避難した人が31.8%(「NHK被災者アンケート」、広島県、岡山県、愛媛県の被災者310人対象、2018年)となっており、いかに普段からの近所や福祉とのつながりが大切であるかが分かります。
家族や親族、近所の人や友人からの呼びかけが避難のきっかけになっている
福祉防災の整備が進んでいる
東日本大震災から10年を経た2021年は、高齢者や福祉施設の防災対策に関する各省庁の取り組みが進みました。
5月には、災害対策に関する法律である「災害対策基本法」が改正され、避難勧告と避難指示(緊急)を「避難指示」に一本化し、水害や土砂災害などの災害時における避難情報の名称が変更となりました。法改正まで、自治体が発表する避難情報は「避難準備・高齢者等避難」「避難勧告」「避難指示」「災害発生情報」の4段階でした。法改正後は、避難のタイミングをより明確にわかりやすくするために「高齢者等避難」「避難指示」「緊急安全確保」の3段階となりました。避難情報は5段階の警戒レベルに分けて発表されていますが、警報レベル5→「緊急安全確保」、警戒レベル4→「避難指示」警戒レベル3→「高齢者等避難」と改訂されました。また、避難行動要支援者の個別避難計画作成を市区町村の努力義務となりました。
厚生労働省では、2021(令和3)年度介護報酬改定及び障害福祉サービス等報酬改定における改定事項で、感染や災害対応力の強化を重点とし、3年以内にBCP策定を義務付けるなどの省令改正を行いました。
そして、国土交通省では、浸水被害の危険がある地区の開発規制や、避難対策を柱とした「流域治水関連法」が成立、同年11月に施行されました。
今後も、国や行政の福祉防災への取り組みはさらに進むと期待されます。私たち一人ひとりも家族や自分自身にも関わる課題ですので、自分事として福祉防災への理解と参加、取り組みをしていく必要があると思います。
2021年5月、避難のタイミングがより明確にわかりやすくするために、避難情報の名称と警戒レベルが変更に
大切なのは、顔の見える関係
近年、全国の福祉関係機関などでは、地域の住民が気軽に集える場所をつくることを通じて、地域の仲間づくりや出会いの場づくり、健康づくりをするための活動が広がっています。こういった地域とのつながり作りは備えの一つです。
そして最近は、コロナ禍を機に働き方が多様化し、在宅勤務やシェアオフィスなど、自宅のある地域やこれまでまで余り立ち寄ったことがない場所で過ごす時間が増えた人も多いのではないでしょうか。私もその一人で、平日日中の自宅周辺の様子を改めて知る機会となりました。
このような背景から、今、福祉の現場だけではなく、地域と繋がりを持ち、地域の人との関係性を構築する場が求められてきています。私たち一人ひとりが、地域や人と繋がることで日々の暮らしが豊かになり、「共助」の力を高めることになり、ひいては災害時に多くの命を守れることに繋がるのではないでしょうか。