大国間競争の最前線となる「北東アジア」 拍車がかかる地域の分裂状態「日本が協力を期待できる国はない」

治安 太郎 治安 太郎

東南アジアと同じようにアジア圏には北東アジアという言い方がある。北東アジアを構成するのは、日本と韓国、北朝鮮と中国であるが、一般的には台湾も含められる。北東アジア諸国は文化的にも歴史的にも多くの繋がりがあることは言うまでもないが、同地域は政治的には世界でも稀にない分断地域といえ、今日、それに拍車が掛かっている。

米ソ冷戦時、日米同盟はソ連共産圏の影響力拡大を抑える防波堤的な役割を果たしてきたように、北東アジアは正に大国間競争の最前線の1つだった。そして、ソ連崩壊によって共産圏拡大という自由主義陣営にとっての脅威はなくなり、1990年代に日本は日米同盟漂流の時代を経験した。21世紀に突入しては、北朝鮮の核問題を話し合う日本、米国、韓国、中国、ロシア、北朝鮮による6カ国協議が重要な役割を果たし、そこにはASEANやNATOのように地域の安全保障問題を地域が一体になって対処するという北東アジアの一体性、北東アジアにおける多国間協力を感じさせる動きも表向きには見られた。

だが、中国の台頭という現実によってそれは逆行することとなった。中国は2010年あたりにGDPで日本を追い抜き世界第2位の経済大国に浮上し、それ以降は米国に近づく勢いを維持している。そして、経済的成長で自信を深めた中国は尖閣諸島や南シナ海などで海洋覇権を強め、近年は事実上香港の一国二制度を崩壊し、台湾統一に向けての動きを強めるなど、北東アジアでは安全保障面での亀裂がこれまでになく高まっている。

今日の北東アジアを眺めていると、正に分裂状態と言える。習政権は中国主導による北東アジアの平和を目指すパックスシニカに焦点を当て、米国と激しい対立を繰り広げ、北朝鮮は自らの政権生存のため一匹狼的な行動に集中し、韓国は米国の同盟国ながら中国との経済関係を重視する難しい狭間にあり、日本は日米豪印によるクアッドなど米国寄りの姿勢を維持しており、それぞれ全く違った立場を堅持している。

しかも、米中対立の高揚によって、我々が住む北東アジアの分裂はますます進んでいる。習政権は経済や少子化など多くの国内問題に直面してはいるが、それが中国の対外的覇権をストップさせるわけではなく、米国では民主党共和党を問わず中国への厳しい姿勢は超党派的なコンセンサスになっている。そして、その先鋭的な対立構図は安全保障的には中国がある北東アジアで繰り広げられることになり、北朝鮮の核問題などを話し合う地域一体的な動きからはますます逆行している。

このまま中国の経済力や軍事力が米国に拮抗する動きが続き、そしていつの日か米国を追い抜く時がやってくると、北東アジアには新たな秩序が形成されていく可能性がある。要は、中国が米国の軍事的動向をそれほど気にせずに自らの主体性を前面に出した行動に舵を切り、日本や韓国はそれぞれ独自で重視せざるを得なくなるシナリオだ。昨年夏、バイデン政権は必要性がなくなったことからアフガニスタンから米軍を完全撤退させた。日本や韓国がこの二の舞になる可能性はほぼないに等しいが、米軍が中国軍を徐々に抑止できなくなり、それ相当の役割を日本や韓国にこれまで以上に求めてくる可能性は十分にあり得よう。

北東アジアは、今後、米ソ冷戦期以上に大国間競争の最前線となる。しかも、その一方は北東アジアに本拠地を置き、米国を力で抜く可能性があり、冷戦期とは全く状況が異なる。日本としては米国がインド太平洋への関与を薄めるリスクも考慮し、今のうちから米国が同地域に関与するメリットや重要性を米国に示し、オーストラリアやインドなどとの安全保障面での協力を強化するという戦略を取る必要がある。北東アジアには日本が協力を期待できる国はない。

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