ウクライナ情勢で米国とロシアの緊張が高まるなか、中国の習近平国家主席は2月、北京五輪に合わせて訪中したロシアのプーチン大統領と会談し、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に反対することで一致した。北京五輪を巡っては米国や英国など欧米諸国が外交的ボイコットを実施する中、両氏の会談は対米で共闘する姿勢を強く示す形になった。
両氏は会談の中で、中露関係は昨年の貿易額が過去最高を記録するなど前例にないほど緊密化し、中露は相互の根本的利益を守る努力を断固として支持すると表明した。プーチン大統領は1つの中国を支持する立場も示し、正に“NATOの東方拡大反対”と“1つの中国”という“互いの核心的利益を互いが尊重し合う”ということになった。
ウクライナ情勢を巡っては、それが台湾情勢に波及する恐れがあるなど中国の出方を警戒する見方もあるが、この会談は中国のロシア寄りの姿勢を鮮明にし、同波及をより警戒させる動きになったことは間違いない。しかし、同様の動きは最近も見られる。
10月18日、北海道奥尻島南西およそ110キロの日本海で、中国海軍の最新鋭のレンハイ級ミサイル駆逐艦など5隻とロシア海軍の駆逐艦など5隻の計10隻が航行し、津軽海峡を通過して太平洋へ向かい、その後千葉県の犬吠埼沖、伊豆諸島沖、高知県の足摺岬、鹿児島県の大隅海峡を航行して東シナ海に至った。これはほぼ日本列島を一周したことになる。これまでも日本近海では中露の合同訓練などは行われてきたが、両国海軍が同時に津軽海峡を通過するのは初めてだった。また、中露両国は10月14日から4日間の日程で極東ウラジオストク沖の日本海で合同軍事演習を実施している。
中露のこうした結束、共闘が顕著に見られるのには理由がある。特にバイデン政権になって以降、より先鋭化しているように感じられる。バイデン政権は発足してからの1年間で、米国と日本、インドとオーストラリアで構成されるクアッド(QUAD)の結束を強めるなど主導権を発揮し、英国とオーストラリアとは新たな安全保障協力オーカス(AUKUS)を創設した。また、欧州との関係を改善させたバイデン政権になって以降、英国は空母打撃群を、フランスやドイツ、オランダやカナダはフリゲート艦などを台湾や日本近海に寄港、航行させるなど軍事的プレゼンスを示しており、インド太平洋に権益を持つ中国やロシアの警戒感は強まっている。
では、このまま中露の結束、共闘はさらに深まり、同盟のような形に変化するのだろうか。結論から先に言えば、対米国という枠内で、また、両者の利益が一致する中では結束は深まると思われる。中国脅威論は米議会の中でも共和党民主党問わずコンセンサスになり、米市民の間でもそれが高まりつつあり、米中対立は長期的に続くことから、帝国ロシアの地政学からみれば、中国と結束、共闘するメリットは大きいと言えよう。
しかし、それが日米同盟レベルの軍事同盟になる可能性は低い。クレムリンの中にも中国脅威論は存在する。例えば、中国は一帯一路構想で対外的な影響力を拡大する中、石油利権もあり中央アジア諸国を重視している(習政権が新疆ウイグル自治区に神経を尖らせる背景には人権問題だけでなく、同自治区が中国と中央アジアを繋ぐ戦略的要衝であることも背景にある)が、正にロシアの地政学からすると中央アジアは自らの勢力圏であり、深まる中国の関与に対する警戒感もある。
また、中国は氷上のシルクロードとして北極政策を強化している。北極海には世界で未発見の石油の13パーセント、天然ガスの30パーセントが海底に眠っているとされ、近年世界の注目が集まっている。しかし、ロシアは北極海域で最大の沿岸国であり、非沿岸国の中国が北極圏のルール作りに関与することを警戒している。
このように考えると、表面的に中露の結束や共闘がイメージとして目立つが、その中には警戒感や戦略の違いなどが見え隠れする。