欧米と中国の緊張関係、ターニングポイントは北京五輪 アングロサクソン国家との対立激化の可能性 習政権は仏独に活路も

治安 太郎 治安 太郎

 2021年、現在のオミクロン株のように世界ではコロナ禍が続き、ミャンマーやアフガニスタンなどではクーデターが相次ぎ、地球温暖化による自然災害も各国で見られた。このようなリスクは来年にも持ち込まれ、2021年より深刻化するケースも見られるかも知れない。一方、2021年、国際政治の世界ではやはり米中対立が最大の問題だった。これまでも両国の関係は懸念されてされてきたが、今年の対立は「それまでの米中対立」とは明らかに様相が変化してきている。それは3つの側面から説明できる。

 まず、今年1月にバイデン政権が誕生してから見られるようになった、「人権デューデリジェンス」への意識の高まりである。人権デューデリジェンスとは、企業が製造や生産過程で社内やサプライチェーンにおいて強制労働やハラスメント、差別などの人権リスクを特定し、軽減や救済に努めることである。トランプ前大統領時代の米中対立とは、アメリカファーストで保護主義的なイデオロギーを前面に出した対中政策で、次々に中国に制裁的な措置を取ることで、正に米中貿易戦争のようだった。一方、バイデン政権はトランプ時代にそれほど重視されなかった「人権」という軸で中国に前面的に迫るようなった。それによって、グローバル企業ではビジネス展開のため人権に注意を払う必要性が高まった。

 2つ目に、米国による多国間外交である。トランプ時代の米中対立とは、正に米国単独で中国に対抗するという構図だったが、これはバイデン政権の誕生によって変わった。バイデン政権は発足当初からトランプ時代に冷え込んだ英国やフランス、ドイツなど欧州との関係をリセットし、自由で開かれたインド太平洋を主導する日米豪印によるクアッド、米国英国オーストラリアによる新たな安全保障協力オーカスなどを積極的に進めるなどした。米中対立は今年になり、多国間的な対立軸に大きく舵を切ったと言えよう。

 3つ目に、2つ目と関連するが、米国以外の欧米諸国による中国離反である。米国以外の欧米諸国の対中不信は近年高まっていたが、今年になってそれが行動として顕著に見られた。英国やフランス、ドイツやオランダは空母やフリゲート艦などを東アジアに派遣し、オーストラリアやリトアニアなどの政治家が相次いで台湾を訪問。最近ではカナダやニュージーランドなどが北京五輪における外交的ボイコットを相次いで宣言するなどした。グローバル経済が浸透する中、各国とも中国と深い経済関係にあり、それによる経済リスクは十分にある。しかし、バイデン政権が誕生したことも大きいが、自由や民主主義を遵守する国として信念的に曲げられないものがあることを強く示す結果となった。

 以上のように、人権問題をキーポイントとした反中国的な多国間包囲網が形成されつつあり、米中対立は大国同士の構図から、“欧米VS中国”という図式に変わっていると言っていいだろう。中国としても米国と足並みを揃える国がどんどん増えることは避けたいので、習政権にとってはトランプよりバイデンの方が厄介な政権かも知れない。

 今日、欧米や中国双方から歩み寄る姿勢、緊張緩和へ動き出す姿勢は全く見られない。よって、2022年もこの情勢が続くことになるが、北京五輪をターニングポイントとして、欧米と中国との対立が今年以上に激しくなる可能性も十分にある。特に、米国と英国、カナダ、オーストラリアとニュージーランドのアングロサクソン諸国と中国の対立は最も激しくなっており、習政権もその改善は諦め、まずはフランスやドイツなど非アングロサクソン系の西洋諸国との関係維持・改善に努めるなど戦略的に動いてくる可能性もある。いずれにせよ、日本にとっては来年も難しい世界情勢になる。

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