私大の地方受験は西高東低、関西がトップ3を独占 1位の大学は「33都市、56会場」担当者「関東とは危機意識が違う」

伊藤 大介 伊藤 大介

少子化が進む中、大学が地方受験に力を入れています。早慶上智やMARCH、関関同立、日東駒専、産近甲龍といった有名私立大学の実施状況を調べたところ、大半の大学が全国各地に試験会場を設け、受験生を呼び込んでいました。首都圏上位校の早慶上智は地方受験を行っていませんが、もはや少数派。さらに関東と関西で比較してみると、関西の大学が地方受験に積極的で、今回調査したトップ3は関西勢が独占。関西、関東の大学に取材すると、地方受験の実施都市、会場数とも関東を上回る「西高東低」で、関西には戦前から地方受験を導入している大学もあることが分かりました。

地方受験1位は近大 33都市、56会場

今回の地方受験調査では、自校キャンパスは受験都市、会場にカウントせず、付属高校など系列校での実施は都市、会場数に含めました。

関西の関関同立(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)、産近甲龍(京都産業大学、近畿大学、甲南大学、龍谷大学)の8大学は、総じて地方受験に熱心で、実施都市数は軒並み二桁を超えました。

今回調査した早慶上智やMARCH、日東駒専といった関東有名大学を含めても、地方受験都市数で1位が近畿大学(33都市、56会場)2位が立命館大学(29都市、51会場)、3位が関西大学(27都市、31会場)と上位を占めました。

近畿大学は兵庫県北部の豊岡市や島根県松江市など人口が少ない都市でもきめ細かく実施しており、8年連続で志願者数日本一の実力がうかがえます。

近大「利便性向上すれば受けてもらえる」 地方の予備校とも連携

近畿大学の地方受験の歴史は古く、今回の取材で、1967年度には東京、金沢、広島、高松、福岡、鹿児島の6都市で行われていたことが分かりました。担当者は「地方受験に先進的に取り組んできた」と進取の気性を誇ります。大半の大学が進出していない高知県(会場・土佐塾予備校)や沖縄県(会場・北九州予備校沖縄校)にも設けています。担当者は「高知では、土佐塾高校の生徒が近大を受けてくれていることもあり、土佐塾高校で説明会を実施し、土佐塾予備校で入試を行う。北九州予備校には九州各県で地方受験会場を提供してもらっており、北九州予備校沖縄校設立を機に沖縄に進出しました」と予備校との連携も生かして地方受験を充実させてきました。「利便性が向上すれば、受けてもらえる。市場を調査しながら、ニーズを見極め、掘り起こしてきた」と精緻な調査で需要を掘り起こしてきた成果を強調します。

立命は戦前から実施「全国性、多様性を重視」

2位に入ったのは、関関同立で最も力を入れる立命館大学(29都市、51会場)でした。立命館史資料センターによると、立命館日満高等工科学校時代の1939年に地方受験を行った記録が残っています。立命館大学専門学部工学科に昇格した1942年にも京都のほか東京、福岡で実施されており、戦前から導入されていました。

長年、地方受験に取り組んできた結果、立命館大学は在校生の半分が近畿圏外出身者で占められており、私大ではトップクラスの多様な地域性を誇るといいます。「色んな地域の人と学び合う多様性を大事にしてきた。全国各地にOBがいて、また新たな入学生を呼び込むことにつながっている」と好循環を強調します。

関西は競争激化 「首都圏とはマーケットの大きさが違う」

近畿大学、立命館大学に限らず、関西の有名大学は総じて地方受験に力を注ぎ、しのぎを削っています。3位の関西大学(27都市、31会場)に続くのは、4位龍谷大学(23都市、44会場)、関西学院大学(23都市、31会場)で、6位に専修大学(19都市、23会場)とようやく関東勢が登場します。

関西では1990年代にはほぼすべての有名大学が導入し、関東より先行していました。なぜでしょう?近畿大学の担当者は「首都圏は18歳人口が多く、私大志向が強い。対して関西はマーケットが小さく、進学校では国公立大学を第一志望にする生徒が多い。少子化が進む中、『取れる中で取っていこう』と関西の大学同士の競争が激しくなった」と関西と関東のマーケットの違いを挙げます。立命館大学の担当者も「関東の大学とは危機意識が全然違う」と同調します。関西大学の担当者は「(ライバル校)がうちの県で地方受験やるんです、と言われたら意識するところはある」と認めます。関西の危機感とライバル意識が地方受験を広げてきました。

地方受験導入にハードル「入試問題を全学部で統一しないと」

また、立命館大学の担当者は、関西の大学が先んじて入試改革に取り組んできた点にも注目します。「AO入試や全学部統一入試など、関東より先に入試制度を変えてきた」。地方受験の場合は、入試問題を全学部で統一しなければコストに合わないといい、「関東の大学は全学部統一の入試問題を作っていないところもある。受験形式の統一を全学部で合意するのは並大抵のことではない」と地方受験導入に立ちはだかるハードルの高さを指摘します。

雪深い地域も会場設置

また、地方受験は受験生を囲い込み、利益を追求するだけではないといいます。立命館大学は福井、松江(島根県)、関西大学は沖縄を止めて富山に設けるなど、雪深い地域に受験会場を置いています。「2月は雪による電車の遅れなどの交通リスクがある」(関西大学)といい、受験者数の多寡だけでなく、雪などによる交通の乱れも考慮して会場配置を決めているそうです。

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立命館大学では全部局の職員が入試に協力し、各会場での試験官や、答案の配送を担います。「これまでの歴史で積み上げたノウハウがあってこそ、厳正な試験が各地同時で実施できる。そう簡単に地方会場を増やせるものではない」と言い切ります。関西のライバル校との激しい競争を経て、拡充された受験体制に対する自負を感じました。

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