避難所の物資「公平に配れないなら、配ってはいけない」と言われたらどうする? 公務員とボランティア…役割分担の重要性が話題に

中将 タカノリ 中将 タカノリ

被災地における公務員とボランティアの役割分担の重要性がSNS上で大きな注目を集めている。きっかけになったのは農業研究者の篠原信さん(@ShinShinohara)の、以下のような書き出しで始まるエピソード。

「震災からしばらくたった2月頭頃、神戸市の職員が避難所に派遣された。ところがどうも初期のころ、ボランティアとぶつかることが多くその日ももめていた。『何をもめているの?』と聞くと、インスタントラーメンを被災者に配りたいのに市役所職員がそれを許さない、と言ってボランティアは怒っていた。」

篠原さんは1995年に発生した阪神・淡路大震災でボランティアに従事し、その際に避難所で神戸市職員とボランティアの間のトラブルに遭遇した。集まった味噌ラーメンと塩ラーメンを合計したら被災者全員に配れるのだが市職員は

「被災者全員に公平に配れないのであれば、配ってはいけない」
「それだと塩ラーメンが欲しい人に味噌ラーメンが配られたりなど、もめる原因になる、だから配ってはいけない」

と主張。ラーメンは市ではなくボランティアが集めたものだったことから、篠原さんは

「もし神戸市から支給されたものなら、あなたのご指導通りに物資を管理すべきでしょう。しかしインスタントラーメンは私たちボランティアがかき集めたものなので、私たちで配らせていただきます。ですので、この問題で責任を感じる必要はないですよ。私たちの責任で分配します。それよりもご存じの通り、配ってしまったらもうなくなってしまいます。もちろん私たちは、今後も物資をかき集めてきます。しかしそれでは不足する恐れがあるので、市役所職員である立場を大いに利用して、不足する救援物資を市に要求してもらえませんか。配ること、その後のもめごとは私たちに任せてください」

と市職員を説得し、以後はスムーズに救援活動が進んだそうだ。

経験を踏まえ「被災地の現場では、公務員には不足する物資の要求をする仕事を担当してもらい、ボランティアが分配に携わる方が円滑に進む場合が多いように思う」と述べる篠原さん。

篠原さんの投稿に対し、SNSユーザー達からは

「公私の裏方↔矢面の関係、正に!と膝を打つ気づきでした。駅のシチュエーション。最近のご時世柄、カッとなった相手に逆上されるかも…な~んて身構えてしまいますね。」
「素晴らしいとは思いますが、いざ私がその場にいたら出来るか?と考えると難しい。職員に話す事は出来ても、市民のクレーマーは何するかわからない。常識ある方だけではなく、暴力に訴える方もいるので躊躇しそうです。」
「頭いい! 公務員は役所に雇われてる人間だからあくまで組織の下で働く人。責めたり非難したりすれば、組織は当然、非難されない方法を選ぶ。 ましてや公務員自体は人間だから、攻撃されれば防御しようとする。 本当に大切なのは話し合ってお互いの役割を探すこと。そうしなきゃ前に進むことはできない」

など数々の共感のコメントが寄せられている。

篠原さんにお話を聞いた。

ーー当時、ボランティアに参加された経緯をお聞かせください。

篠原:弟が神戸大の学生でその避難所に常駐ボランティアになったことから、関わることになりました。

ーーはじめ市役所職員の方の意見を聞いた際のご感想をお聞かせください。

篠原:「公務員の立場からではそう考えるだろうな」と理解しました。

ーー篠原さんの説明を聞いて市役所職員の方はすぐ納得したのでしょうか?

篠原:すぐ納得して頂けました。その後、すぐに柔軟な対応に変わりました。

ーーこれまでのSNSの反響へのご感想をお聞かせください。

篠原:これまでも紹介したことがある内容なので、今回反響が大きかったことに少々驚いています。皆さんのお役に立てば幸いです。

   ◇   ◇

被災地における救援活動で真に求められるのは効率と効果。非常時だからこそ、このエピソードのようにたずさわる人々の立場を違いを超えた理性的な判断がなされるよう願いたいものだ。

なお篠原さんが2020年に出版した著書「思考の枠を超える 自分の『思い込み』の外にある『アイデア』を見つける方法」(日本実業出版社)は今回の話題にもつながる柔軟性のある思考の持ち方について言及した良著。ご興味のある方はぜひチェックしていただきたい。

篠原信さん関連情報】

▽Twitterアカウント
https://twitter.com/ShinShinohara

▽著作一覧
「思考の枠を超える 自分の『思い込み』の外にある『アイデア』を見つける方法」(日本実業出版社)
「自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書」(文響社)
「子どもの地頭とやる気が育つおもしろい方法」(朝日新聞出版)
「ひらめかない人のためのイノベーションの技法」(実務教育出版)

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